ゼロの物語

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 冬が近づく今の季節。 一人でいるのは寂しい。 でも簡単に一緒にいる人を決めたくなかった。 本当に好きな人と一緒にいることを私は望んでいるから。 その季節の帰り道。 いつもなら友人と一緒に帰るところ用事が出来て一緒に帰れなかった。 そこに現れた大樹はまるで私の寂しさが呼んだようだった。 「また告白されたのかよ」  触れたくないと思いながらも不思議と大樹に話すのは苦痛を感じなかった。 でもそれ以上に不機嫌を顔に出しているのは大樹だった。 その顔を見ると少しだけ笑うことができた。 「妬(や)いてるの?」  笑って悪意のある言い方をする私。 「別に」  そっけない返事もまた意地悪な気持ちを誘う。 「可愛いとこあるじゃん」 「うるせー」  私はその大樹の表情の変わりが昔から楽しかった。 素直に顔に出す大樹は私にとって居心地のいい人だった。 「岡本!」  後ろから何人かの足音が聞こえて気づく頃には私たちの横にいた。 「お前ら付き合ってるのかよー」 「お似合いー」  からかいの言葉や行動は小学生レベル。 それでも気分は良くない。 同学年だとわかっている私はすぐに否定を口にしようとする。 「そうだよ」  不意に横から耳を疑うような言葉が聞こえて否定を忘れて目を開いたままだった。 「なんだよ。つまんね」  そう言って先を歩きだす。 でもそんなことを言う大樹は私と二人になっても動じない。 「否定しなくていいの?」  先を歩く男子と大樹を繰り返し見る私に大気は真剣に私を見る。 「否定したい?」  ずるい。その一言。今までと違う。 私は大樹の目を見つめ続けた。 その大樹の顔が近づいてきても私は逃げない。 どこかで望んでいるように。 私は承諾を受け入れるように目を閉じた。
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