第一章

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 いつでも思い出そうと思えば思い出せるあの恋は儚(はかな)く散った。 この話をするとき、千歌子はいつも責める目ではなく、私を包む目で見ることが多い。 「急にいなくなって。ましてや駆け落ちだなんて」  言わなくてもわかる。 大樹のことだと。 大樹は大学に入る頃、私の前から姿を消した。 そして同じ学年が集まる成人式で広まった。 駆け落ちをして、海外に行ったと。 誰が知っていた情報なのかわからない。 でも誰もが信じていた。 噂という大きな世間で。 でもその物語はもう終わり。 そして私の新しい物語は始まるのだから。 私の幸せな人生……
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