第三章

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 店に入ると映像の世界で見たレストランのようだった。 この場合はメニューに困るはず。 飲み物も? まず雰囲気だけで緊張して震えてしまう。 座ればなおさら肩に力が入る。 「緊張してる?」 「しないわけないじゃん」  慣れないと声すら小さくなる。 その動揺に勇輝は笑う。 「リラックスしていいんだよ?」 「無理だよ。それに仕事帰りの普通の服なのに」 「いつでも可愛いから大丈夫」  勇輝はいつも私を可愛いと言う。 でも他の人からは感じたことのない重さだった。 それは軽く言って離れていく人とは違うとわかる。 「あのさ」  勇輝の声が聞こえて勇輝を見ると勇輝がいつもとは違う真剣で堅い表情をしていた。 「俺、こないだ強がったんだ。恋人と思うだけでいいって」  千歌子の言葉は今理解できる。 我慢をさせていた。 こんなに私のことを考えてくれる人に。 「だから、記憶に残す方法を考えたけどやっぱり思い浮かばなくて、だから緊張感があれば俺の中の他の緊張が混じって素直になれるかなって思ったんだ」  勇輝がそこまで考えているとは思わなかった。 私が一つのことで頭をいっぱいにして不安な顔ばかりしたり、再会した時は他の男の愚痴をこぼしたり。 その間にも勇輝は私のことを考えてくれた。 これ以上嬉しいことはなかった。 「俺、やっぱり美紗子ちゃんが好き。この気持ちは変わらない。だけど、俺は美紗子ちゃんの本当の彼氏になりたい。だから恋人になってくれませんか?」  他のことは気にならない。 なんて言えたら今すぐに返事ができる。 それなのにこの緊張感に負けて何も言えない。 「えっと、私は……」 「無理しなくていいよ。この空気に緊張してるでしょ。緊張して言葉が出ないのに、無理やり答えを出すことはさせたくないし」  勇輝はなんでもお見通しだ。 なんでもわかってくれる勇輝に対して私は何も伝えられていない。 私も伝えるべきだ。 「勇輝君、行きたい場所が二つあるの」 「じゃあ、行こう」 「え?」 「ここで緊張して食べれないより、リラックスして二人の時間を過ごした方がいいでしょ?」  理解が速いと同時に行動も速い勇輝のペース。 そのペースについていくなら自分にも覚悟をする気持ちがないと勇輝を傷つけるだけだ。 だから私は本当の私を見てもらいたい。 いい子を装った私がベールをとっても好きでいてくれる? 心の中での勇輝への試練だった。
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