第三章

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 ブランコの紐を掴んで軽く揺らすとそれだけでも風を感じる。 季節を間違えたなと思うが、ここくらいしか思い浮かばなかった。 二人で何も考えずに話せる場所。 「勇輝君、いつも私のこと可愛いって言ってくれるよね?」 「うん。可愛いよ」  自分で聞きながら恥ずかしさを感じてその感情を自分の中の引き出しにしまう。 「どうして可愛いと思うの?」  容姿。そう答えられたら私はこの関係を消す。 容姿と答える人はいない。 でももし容姿だけだとしたら、中身のない可愛さなら私の望むものはない。 「容姿」 「え?」  誰もそんなこと言わない。 素直になんて言わない。 でも関係を切るのは今だった。 口を開こうとすると遮るように勇輝が話し出す。 「最初はそうだった。でも一緒にいて思った。守りたい相手、ずっと一緒にいたい相手、なんでも知りたい存在、俺を変えてくれた人。それが美紗子ちゃんだった」  言葉も忘れて勇輝の言葉ではなく綺麗な意見に飲み込まれた。 「美紗子ちゃんが時々見せる素直な表情。見れば見るほど好きになるんだ。もっと知りたいって。だからどんな美紗子ちゃんを見ても全部が可愛いと思える。それが答えだよ」  止まったブランコで並ぶ私たち。 冷たかったはずの風が感じられないほど夢中だった。
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