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第四章
ベッドを綺麗に整頓してから私はリビングに行く。
冷蔵庫から水を出して飲みながら時計を見る。
六時。
携帯をポケットから取り出して一つの番号を押す。
耳に当てると発信音が聞こえる。
何度か鳴った後、発信音が消える。
「もしもし……」
「おはよう、勇輝君」
「あ、美紗子!」
先ほどまでのろれつの回らない勇輝の声からは考えられない声で私の名を呼ぶ。
「ちゃんと起きれた?」
「美紗子のモーニングコールのおかげで」
最近の私たちは電話も会うことも増えた。
何も用事がないと黙ってしまう私の性格を理解しているようで何個もの話題を用意しているのがわかる。
幸せが一瞬というのもわかる気がした。
努力をしないと関係は続かない。
勇輝はその努力をしている。
だからこそ私は思いついたこと、できることをしようと思う。
勇輝は二月という中学生には重要な時期になって忙しさから朝が弱くなったと話してから私は毎日朝に電話をかけている。
「気を付けて行ってね」
「美紗子今日と明日休み?」
何となく聞こえてくる物音。
準備をしていることがわかる。
その準備の妨げにならないよう急いで返事をする。
「明日は休み。今日は午前に会議があるけど一応休み期間だからそんなに遅くならない」
私の勤める通信高校は二月で全てのテストが終わる。
三月の卒業式に向けての準備、次の年度に取る科目の提案表。
その二つが二月の主な仕事だった。
「じゃあ、今日泊まりに行っていい?」
私はもう驚かない。
付き合ってあまり月日は経っていない。
それでも学生の頃の恋愛と違って距離を縮めるのも速く、自由もある。
勇輝が私を大切にしてくれるなら私はその中にいられるようにしたい。
「いいよ。夕飯何がいい?」
「美紗子も仕事あるから簡単に作ってくれればいいよ。あ、でも量は少なくていいからね」
勇輝の唐突で不思議な言葉に首をかしげる。
「食べ過ぎになってた?」
「違う違う。理由は帰ってからね」
勇輝との電話が切れると自覚のある寂しさが残る。
勇輝がいることで安心と気持ちの安定があった。
でも執着をしてはいけない。
同じ失敗は繰り返さない。
わかってはいるけど、心の奥で離したくない気持ちが強くなっていく。
振り切るように私はクローゼットに向かって着替えを始めた。
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