第四章

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 家のキッチンで鍋の中身を混ぜながら、今日の出来事を振り返る。 恋はどうしてこんなにも残酷なものを見せるのだろう。 手を止めるとチャイムの音が鳴る。 玄関を開けると勇輝が立っていた。 「久しぶり」  笑う勇輝の顔を見て全てを忘れるようだった。 「久しぶりって一週間会ってないだけだよ?」  笑いながら勇輝を家に入れる。 「一週間は十分長い」  ふてくされたような顔をしてソファに座り込む。 その勇輝が机に置いた箱を見る。 「なんだと思う?」  意味ありげに笑う勇輝の顔を見て、箱を見つめると箱に私の好きなケーキ店のロゴがあった。 「ケーキ!」 「正解。ご飯食べたら一緒に食べよう」  嬉しかった。 日常が楽しい。 こんなに退屈じゃない日々。 最初だけというけれど、その最初が楽しいのは幸せだと思う。 「今日煮込みうどんでいい?」 「いいよ。風呂沸いてる?」 「沸いてる。入ってきていいよ」  鞄から代えの服を出して風呂場へと向かう勇輝の背中を見て、重ねてしまった。 あの寂しそうな背中。 私もそう見えていたのかもしれない。
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