第四章

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 それから私は今までの人影について勇輝に話した。 言う度に涙がこぼれるのを勇輝が拭く。 言い終わる頃には頬が流れた涙で乾燥していた。 「美紗子」  呼吸を整えながら勇輝を見た。 「俺を頼っていいんだよ?」  言葉と一緒に握られた手は大きくてまるで全てが包まれているようだった。 「美紗子はきっと俺が忙しそうにしてたから一人で抱えてたのかもしれないけど俺は美紗子の恋人だから。俺の中の一番は美紗子だから。どんなに疲れてても美紗子のためならいつでも来る。いつでも抱きしめる。だから抱え込むな。俺を頼れ」  優しい言葉。そして力強い言葉。 全て勇輝から出た言葉。それだけで嬉しかった。 「ありがとう」  一言しか出ない私の目を勇輝はじっと見た。 「美紗子、確認していい?」 「何を?」  首をかしげる私に勇輝は口角をあげた。 「俺のこと好きか」 「え?」  突然の質問に思わず笑って聞き返してしまう。 「うん」  頷きながら言う私を勇輝は微笑んで見ている。 目を合わせると閉じている口が緩んで笑顔になる。 勇輝と私は額を合わせた。 近くてでも遠い。 勇輝の中での意地悪で可愛い愛情表現だった。
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