第四章

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 ほとんどの先生が出勤して会議が行われた。 いつも穏やかで光のような職場が色を失って静まった。 「そういえば、小澤先生は?」 「連絡は来てないです」 「え?」  出勤日のはずの小澤がいない。 昨日の勇輝の言葉を思い出す。 勇輝の予感が当たっていたら全て繋がる。 「月野先生、どうした?」  小澤のデスクを見つめた私にキャンパス長がいち早く気づく。 職場を汚したくない。悪くしたくない。 でもここで本当のことを言わなければもっと受け入れられないことが起こるかもしれない。 そう考えたら怖さを捨てて一歩踏み出すのも職場のためだと思えた。 「実は最近、帰り道に人の気配を感じていて、駅になったらその気配がなくなることが続いていたんです」 「いつ頃から?」 「気づいたのは……」  言葉が詰まる。 そんな私を心配そうに見つめてくれる先生たち。 隠し事はしたくなかった。 「小澤先生にお付き合いを断った後です……」  ざわつくわけでもなく信頼していた一人に裏切られた衝撃を感じているという反応だった。 「じゃあもしかしたら小澤先生かもしれないね……」  落胆するキャンパス長。 衝撃を受け止めきれない先生方。 見ているのが苦痛だった。 「でもどうしますか? 身内にいる場合もそうですし、月野先生は気を悪くするかもしれませんが脅迫文として見てもらえない可能性がある内容ですし」  正論で現実的だった。 同じことを思っていた私に対して他の先生は考え込んでいた。 先生たちは仕事仲間に裏切られ、あんなに心地の良かった職場が暗くなった。 私が持ち込んだことだ。 だったら自分が動くしかない。 「キャンパス長」  考え込んだ顔をあげてキャンパス長は私としっかり目を合わせた。 「休職させてください」  全員の顔つきが変わって悩みから驚異に変わる。 「私はこの学校が好きです。雰囲気も人の温かさも。でも私のことで暗くしたくないんです。温かさを奪いたくないんです。だからお願いします。私のわがままを受け止めてくれませんか?」  後悔はなかった。 私を見つめてくれる先生。 見捨てたりしない。そう言ってくれているようだった。 「わかった。受け止める。でも少しの間にしよう。新学期始まって月野先生がいなかったら生徒も悲しむでしょ? 私たちも解決するように行動してみるから」  ありがとうございます。その一言しか出ない私には光でも希望でもなく先の見えない闇しか待っていなかった。
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