第四章

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 時計を見ることすらできなくなった私は何の音もしない部屋でずっと手を握っていた。 「美紗子?」  聞こえた声。扉が閉まる音。 握った手を眺めていた私の視界に勇輝の顔が映る。 「どうした? 涙流して」  涙を流していることにようやく気づいた私だが拭く力もなかった。 そんな私を勇輝が包む。その時初めて声が出た。 「よかった。怖かった」  しゃくりあげる私の言葉は勇輝に届いたかはわからない。 でも包まれているのが夢ではなく現実であることに気持ちが緩んだ。
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