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「部長、一体ど~すんスかぁ?」
情勢は3対1。
まずは彼。見るからにやる気のない少年。
「し、知らないわよっ! 元はといえば、アナタがあんな得体の知れないモノを拾ってくるからいけないんでしょうがっ!」
そして、事態を収束しようと奮闘する、部長と呼ばれたツリ目がちな長黒髪少女。
「生姜? ……が、ガチョウ。かわいい」
最後に、やる気はあるようだが役立つ様子はない、銀髪ツインテール。
「そこっ、しりとりしてる場合じゃなぁ~~いっ!」
激高し、振り返る“部長”。
その背後。部長と呼ばれた少女がのぞき込んでいたのは、かなり大きな作りのプレハブ小屋。
全開のゲート横には、こう書かれていた。
『公立すなぎも学園付属航空宇宙局出張所』
「えーい! まどろっこしい! どんなに奇っ怪で正体不明だろうと、アレが現行のロボットOSで動作している以上、この“最上位強制解体コード”を挿せばイチコロよっ!」
部長が手にするのは、ボールペン程度の角張った金属棒。
おそるおそる格納庫のような小屋に足を踏み入れる。
右手には、聖剣“最上位強制解体コード”。
左手には、やる気のない少年。
「ちょっ、部長! 引っ張らないでくださいよー。ワイシャツが伸びちゃうじゃないスか~!」
「みんなまって~!」
あたりを見渡し、誰もいないことを認識したツインテール少女が、二人を追って薄暗い小屋へ足を踏み入れる。
パチン。部長が壁のスイッチを押した。
――――カッ!
暗がりに閃光が走り、中央に置かれたソレを照らし出した。
胴体らしき箱。
ソコから生える長い首。
頭部にパーツらしきモノは無く。
シッポは極太の電源コード。
総体としては馬。
但し、後ろ足がトラクターのゴツいタイヤになっているため、機械としての機能と用途が、一目では判別できない。
「―――ガガガガガガッピュィイーーーーーーーーッ!」
近づく三人を検知した謎の機械が警報を発した。
「林水! イヤーマフとってこい!」
壁を指さす部長。ソコにはホワイトボードや各種の機材が掛けられている。
『部長/長曽加部鈴子
部員/林水真水
部員/亘良畏言良
幽霊部員/時価』
ホワイトボードには、何らかの構成員リストに加えて、
『今月の標語:火薬及び高圧電源使用不可!』
という達成目標(?)らしきものも記されている。
「(へーい、部長~!)」
林水と呼ばれたやる気のない少年が、見た目に反した機敏な動きで壁からヘッドホンのようなモノを三つ持ってきた。
ガガッガピッ♪ ――――ビリビリビリッ!
増していく音量。小屋全体が軋むほどの音圧。
「(……、…………!)」
もう、部長の声は本人にすら届かない。
それでも、装着した防音装置により、その場に留まることには成功した。
ツインテールの部員少女がスマホに文字を打ち込んだ。
『亘良畏:長子ちゃん、これ終わったら帰りになんか食べて帰ろ?』
『林水:いいっすね、駅向こうのお好み焼きなんかどうっすか?』
チャットルーム名称は『航宙研』。
『長曽加部:そんなこと言ってる場合ですか! 今すぐコイツを黙らせるのが先でしょう! あと、長子って言うのはやめて。それと、お好み焼きなら、私半額クーポン持ってる』
スマホをポケットにしまう三人。
ツインテールをなびかせ、亘良畏が背中から料理用の鍋掴みのようなモノを取り出した。
真っ白なミットには青い眼が二つ付いてて口は真っ赤。
総体としてはオバケかシロヘビ。
ソレを受け取った長曽加部部長が、右手に装着。
金属棒をしっかりと掴みなおす。
そして彼女の中間服の裾から覗く太めのベルトには、ハンドルらしきモノが付いていた。
ハンドルを、林水少年がしっかりと握る。
部長は背後へうなずき、ジリジリと前進を開始する。
果敢に怪音発生源へ歩み寄る少女の腰からチェーンが伸びていく。
それはペットの散歩ヒモほど長くはなく、せいぜい1メートル。
長さが足りなくなった分は、少年とその背後にへばりつくツインテールが一緒に前進していく。
――――ビリビリビリッ!
――ぐわらんっがららん!
大音圧による振動で、頭上から剥がれ落ちたトタンが落ちてきた。
「「「(――、――!)」」」
口々に何かを叫ぶモノの、なんと言ったかは判別できない。
ぐりん。
不意に馬の首が、少女達に向かって傾いた。
口が大きく開き、現れたのは大口径のレンズ。
――――カカッ!
少年少女たちを照らす、強烈な光線。
「まぶしっ!」
「ぎゃ、眼がっ!」
「はくちゅっ!」
発光と同時に、爆音が消失。
全員、ヘッドホンのようなモノを外して、首に掛けた。
「音が止んだ! 鍵穴の場所はわかる!?」
「普通なら、機体底か上部にハッチの開閉ボタンが~」
「ちょうこちゃんガンバレ、……はくちゅっ!」
顔を伏せ手探りで馬の腹部にとりつく。
「あった!」
――ピッ♪
カッシュッ!
――――ジャキジャキリッ!
差し込まれる金属棒。
「回すわよ、1、2、3……ガチリ」
バクン――フッ。
口が閉じられ、閃光が消えた。
「ふう、うまくいった……のかしら?」
――――ビーッビーッビーッ♪
「システムへの不正アクセスを検知いたしました――」
再び口が開き、今度は赤い閃光がほとばしる。
「しゃべったっ!?」
「まあ、しゃべるくらいはするんじゃないスか?」
「きれいな声~♪」
「――すみやかに解除コードを入力してください」
機体の横、表示されたのは『04:59』。
「え!? あと五分? 解除コードって何よ! そんなの知らないわよ!」
と、手を離したスキにするすると飲み込まれる“最上位強制解体コード(物体)”。
「あ、取られちゃいましたね~。もうお手上げですよ」
「ちょうこちゃん、ガンバレ!」
「――すみやかに解除コードを入力してください」
『04:31』
刻一刻と迫る、入力受付終了時間。
「何笑ってんのよ、林水! な、なんとかしなさいよ!」
「えー、そういわれてもなー。そもそも、解除コードなんて言う個別のセキュリティーを一切鑑みないのが、最上位強制解体コードの最上位強制解体コードたるゆえんっスから……」
「ちょうこちゃん、ガンバレ!」
「――すみやかに解除コードを入力してください」
『04:15』
「くっ! なによこれ、入力デバイスが無いじゃないっ!」
馬の首や横っ腹を叩く部長。
「スマホの認証デバイス検索でも、検出されないスね~」
「ちょうこちゃん、ガンバレ!」
「――すみやかに解除コードを入力してください」
『03:59』
「なお、時間内に解除コードの入力が無い場合、当機は機密保持のため自動的に――――」
「もうダメだーー! 部長権限により、当拠点は現時刻を持って破棄。各自速やかに撤退を――――」
右往左往する部長。ソレに引っ張られる部員林水。
「ちょうこちゃあぁ~~~~ん!」
部長を追って左往右往する部員亘良畏。
「自動的に――――調理メニューを決定させていただきます」
「は? 今なんて言った?」
「――――自動的に、調理メニューを決定さ――――」
繰り返される、警告。
「何よ、調理メニューって!?」
「僕に聞かれてもわからないけど、アレじゃないスか?」
少年の視線が、謎の機体に向けられる。
「ミニうどん定食(280円)……特上握り(時価)……お好み焼き(180円)……、ちょうこちゃんお好み焼きあるよっ!」
『ミニうどん定食(280円)』
『特上握り(時価)』
『お好み焼き(180円)』
『航宙研』の面々の、目の前。
馬のタテガミがなびくように、横書きのお品書きがたなびいていた。
「――すみやかに解除コードを入力してください」
『02:04』
「なお、時間内に解除コードの入力が無い場合、当機は機密保持のため自動的に――――」
「やかましーわっ! なんか、おいしそーな匂いがしてきたんだけど!」
◇
「いやー、駅向こうって言い出したのは僕っスけど、帰る方向はソッチじゃないんでー、バス代浮いたっスよ……もぐもぐ」
「べつにアンタは呼んでなかったんだけどね……もぐもぐ」
「つれないこと、言わないでくださいっスよ……もぐもぐ」
「ちょうこちゃん、オイシーね♪」
「はい、ちょうこ呼ばない。ソース付いてるわよ」
ツインテール少女の口元を拭いてやる長黒髪少女。
「で、どうするこの機体。さっきの、“5分”てのが調理都合のラストオーダーって事だけはわかったけどさ……もぐもぐ」
「ですねー。入力方法が無い以上、あの時価ってのはちょっと危険スよね……もぐもぐ」
「お好み焼きオイシーよ?」
「うん、これは本当に安くておいしいわ。けど、三分の一というのはギャンブル要素強すぎよね。……ウチの幽霊部員じゃないんだから」
ぺろりとお好み焼きを平らげた部長が、たなびく『特上握り(時価)』を睨みつける。
「いやでも、今回だって場合によっては、時価で対策してもらうことになってたかもしれない事を考えたら、安いもんかもしれませんよ?」
少年の視線は、ホワイトボードの横、『幽霊部員召還』と書かれた特大のスイッチボックスを睨みつけている。
「馬ちゃん、スクラップするの?」
まだ、ようやく半分を食べ終わったばかりのツインテール少女の視線は、謎の馬機体の更に奥。
そこそこ巨大な、小型軽自動車なら入りそうなサイズの油圧プレス装置が鎮座するあたりに釘付けになった。
「来週、月初めなら、ちょっとくらい時価でもなんとか……じゅるり」
『本日の決済 1件:計180円也』
スマホ画面にはお好み焼き代金の決済画面。
取引先の名前は文字化けしてて読めない。
「僕も来週なら、小遣いが入るので……じゅるり」
「やった! じゃあ馬ちゃんも航空宇宙研削部の仲間だね!」
高い塀で囲まれた敷地内最北端。雑木林のさらに奥。
彼女らがいるのは、板付きカマボコのような大きな格納庫。
その更に北側には、一点の曇りもない巨大な金属塊がそびえ立っている。
磨き上げられたような鏡面に、一カ所だけ入り口らしき窪みがあるが、同じ金属で閉ざされているため中の様子は分からない。
その周囲はクレーター状に凹んでおり、厳重なバリケードが幾重にも張り巡らされていた。
緩衝地帯にもなっている荒れ地には、ひしゃげた家電製品のようなガラクタが無数に散乱している。
「“最上位強制解体コード”も、取られたままだしね」
「そうっスね。研削部の備品として正式に申請しときまスかね~」
「あたし、馬ちゃんの首輪つくるっ!」
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