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空港へと向かう電車が出るまで、あと5分。
隣にいる幼なじみの女の子は、あの電車に乗って、さらに飛行機に乗って、僕の知らない町へと旅立ってしまう。
何か言わなきゃと焦るのに、言葉は何一つ出てこない。
早く言わなきゃ。もう二度と、直接言えるチャンスなんてないのに。臆病になってる場合じゃないのに。
彼女を見ると、希望に満ち溢れた顔をしている。
とても綺麗だ。
この表情を曇らせたくない。
でも、君に言いたいことがある。
「ねえ」
ようやく出た声は、電車がもうすぐ来るというアナウンスにかき消されてしまう。
「この小さな町ともお別れか」
彼女がにっこりと微笑む。僕は微笑み返すことしか出来なかった。
あと5分じゃあ、やっぱり短すぎる。どうして今の今まで言わなかったのだろう。いや、この気持ちに気づけなかったのだろう。
僕ってやっぱりダメだな。そう思って俯く僕に、彼女はちっとも気づかない。
長くて短い5分。
君は今日、人生の新たな一歩を踏み出し、僕は踏み出し損ねる。
「好きだったんだ」
その言葉は、やって来た電車の音に消されて、僕の気持ちも終わりを告げるのだった。
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