砂漠で拾われた子猫

1/6
206人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 ぼやけた視界に映るのは茶色い世界だった。  幾度か瞬きをしても茶色い景色は変わらない。ずっと、ずーっと続く茶色い景色は果てがないように見え、同時に茶色以外の何をも見えなかった。  乾いた風が頬を焼く。暑い。暑くて暑くて仕方がない。身体中の水分が抜けたような気がして、もはや汗さえも出ていない。それに気づくと途端に喉の渇きを覚えた。無意識に喉を鳴らすが、乾いた喉が張り付くばかりで望んだ潤いは一つも得られない。  熱く強い乾いた風が再び吹き付ける。細かな粒子が襲ってきて、咄嗟に瞼を閉ざした。ザリッと僅かに粒子が口の中に入ってきて不快だ。ここは砂漠のど真ん中なのであろうか。  とにかく皮膚を焦がすような熱さから逃れたいと、寝転がっていた身体を起こそうとする。しかし手足がきっちりとロープで戒められており、起き上がることはできなかった。 (どうして……)  どうして己はこのような所に、このような姿で打ち捨てられるように横たわっているのだろう。必死に思い出そうとするが、脳裏に白い霧がかかったようにぼやけて何もわからない。  身を包んでいる酷く粗末でボロボロな布は己を砂漠の熱からまったく守ってはくれない。喉がカラカラで、暑くて、視界がぼやけては点滅する。  死ぬのだろうか。そんなことをぼんやりと思った。  何も思い出せず――そう、己が誰なのかもわからない状況で、目覚めてすぐに命の危機。ただただどうしたらよいかわからなくてボンヤリとするばかりだ。人間パニックに陥ると逆に何も考えられなくなるらしい。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!