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世間知らずなのか、なんなのか。
見るからに悪党の俺に、案内していただけませんかときた。
冗談じゃねえ。
「やだね。面倒ごとはゴメンこうむる」
即答で言ってやると、女は不思議そうに小首を傾げた。
やだねえ。
いかにもお上品な仕草が、逆に鼻につくぜ。
「面倒ごと……?」
訊き返されて、俺はせせら笑ってやった。
彼女の背後を指差してやる。
「随分とお連れが多いようで。
俺より先に、お連れさんたちが御用がありそうだぜ」
言うと、物陰からのそり人影が現れる。
いち、に、さん……五人か。
あきらかに、ならず者。
どうせ、金持ちそうなこの女の後をつけてきた追い剥ぎ連中だろう。
関わりあいになるのも、めんどくせえ。
「まあ……」
女はそう一言漏らして、絶句してしまったようだ。
怯えちまって、声も出ないか。
おおかた、でかいお屋敷でなに不自由なく育ったんだろうな。
こういう場所での常識ってものを知らねえ。
危なそうな奴らを見かけたら、とっとと逃げろって常識をさ。
「じゃあな。運が良けりゃ、生きて帰れるだろ」
俺はひらひらと手を振って、踵を返した。
俺に関わる気がないのを見て取った追い剥ぎどもが、ずいと距離を詰める。
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