泥団子

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「あと五分だ」 上から押さえつける様に響いた課長の声に、腹の中ではヨッシと拳を握りしめた。 時間の遅れが生じるとプレゼンの前から分かり切っていたのだから、最後のお願いとばかりにすがった時に本当に欲しい時間の倍を口にしたんだよね。 「お願いです。あと十分」 目の前で小気味良い音を立てて打ち付けあった掌を、合掌の形のまま深く頭を垂れてお辞儀すると共に頭上よりさらに高く揚げる。 情けない声もついでに上げておけば、根っこの甘い課長は必ず折れてくれる。 スタンスとして、懇願された時間の半分を指示し課長自身の威厳も保ちながら。 最も、お互いに付き合う月日の中で培ってきた腹芸だけど。 「ありがとうございます」 感謝の言葉と、ほっとしながらも歓喜に満ちた表情を見せれば、部長や製造部の工場長も仕方ないと渋い顔を見せて笑う。 社内プレゼンとは言え、うちのチームのアイデアをなんとしても商品化したい所だった。 最近のプレゼンでは成果を上げていないから、このままだとボーナス所か誰かが切られるかもとチーム全体が焦ってもいる。
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