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しかし魂だけになっても意識があるとは驚きだ。感覚的に違和感はあるが、ある程度自分の意思で動くこともできる。
いろいろ動いているうちに楽しくなってきて適当に動き回っていると、途中で何かにぶつかった。
「イテッ」とっさに声が出る。肉体がないので発声することなどできないのだが、感覚的には声を出すという表現が一番しっくりとくる。
「っと、すみません」ぶつかった何かが言った。声のするところは薄くモヤがかかったようになっているだけだったがそこには確かに何かがいた。
俺はその何かに、恐る恐る声をかけた。
「何かいるのか?」
すると返事はすぐに返ってきた。
「あっ、はい自分加藤といいます。あなたも成仏出来なかった方ですか?」
拍子抜けするほどあっさりとした答えが返ってくるとともに、やはり自分は死んでいるんだという事実を突きつけられる。
「どうも、自分は榊です」
とりあえずの挨拶を返しながら先程言われたことを思い返して問いかけた。
「あなたもって?」
言うと同時にモヤの中から返答が返ってくる。
「まあ、今生きている人なんていないでしょうが」
さらっと衝撃的なことを聞かされ冷静さを失い強めの口調で再び問いかける。
「待て!どういうことだ?」
「どういうことって聞かれましても、世界が滅びたのはご存知ですよね?」
またしても衝撃の事実を容赦なく突きつけてくる。
「世界が滅びたって、どういうことだよ!」
無意識に声が荒っぽくなってしまう。
「今朝アラートが鳴って、携帯やらテレビで世界滅亡の報せが来たじゃないですか。もしかして生前は携帯持ってないタイプの人でした?」
部屋にはしばらく使っていなかったがテレビもあったし、携帯だって持っていた。持っていたがアラートなんて鳴らなかった。もしかして携帯の電源が切れていたのだろうか?そうえば昨日は携帯で動画を見ながら寝落ちしてしまった。充電器も挿しいなかった気がするので電源が落ちていたのかもしれない。
「ああ、多分電源が切れていたんだ。だから俺は世界が滅亡したとか言われてもよくわからん。ここは天国とかそういうのではないのか?」
さっきから質問しかしていないが加藤は気の抜けた声色のまま答えてくれる。
「世界が滅亡したなんて僕もよくわかんないですよ。なんたってアラートがなってから滅びるまで5分くらいしかなかったですもん。急に視界が真っ白になって、熱ってなったら今の状態ですもん。実感ないですよ。それにここは天国ではないと思いますよ。会った時に言いましたけど多分僕たちは成仏できてないだけで、ここは滅びた地球だと思います。なんたって僕は地獄に落ちるような悪人でもなければ、天国に行けるほど善人でもないですからね。」
死んだというのに加藤はヘラヘラとした話し方をする。それを気色悪く思い、離れたくなってきていたが他に情報の当てもないので可能な限り情報を引き出すことにした。
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