ひと夏の思い出

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学校の帰り道まだまだ日が落ちるのは遅くコンクリートからの照り返しも厳しい。 「あちー」 この暑さに耐えられず制服の胸元をパタパタと扇ぐ 「お前女なんだからもうちょっと恥じらいもてよ!」 隣を歩く幼馴染の颯真にパチッっと歩きながら後頭部を叩かれた。 「だってーだってー」 こんな暑苦しいにも関わらず腕を捕まれブンブンと揺さぶられる。 颯真は分かりやすくリアクションをとってやろうと体を揺さぶられるタイミングに合わせて大袈裟に揺れる。 「うお~うお~」 「アイス食ーべーるー。」 目の前のコンビニを指差す。 「わーったよ。」 頭をくしゃくしゃと撫でた。 「ちょっ汗かいてるのに止めてよ!」 「どうせかわんねーだろ」 「そんなこと無いわ!」 「ホレッ」 「ギャッ!」 顔にアイスを当てられて反射的に跳ねた。 怒ってる間にそそくさと会計を済ませ外に出て行ってしまった。 「ちょっと待ってよ~」 「ホレっお前の分」 颯真は近くの公園のベンチに腰掛けパピコを半分に折って投げる。 急いで颯真を追いかけて小走りのままキャッチする体制を取る。 宙を舞うパピコの表面の水滴が顔に当たる。 冷たいな~と目をパチパチさせながら太陽とパピコが重なり影になった瞬間キャッチした。 「おっ、ナイスキャーチ」 もう颯真は食べ始めていた。 キャッチが成功しドヤ顔のまま隣に腰掛けた。 「いただきまーす。」 「おーう。」 「ん?アレ?」 開封出来ずに慌てているのを見かねて颯真が手を差しだそうとした瞬間 「ホラ貸してみ」 「うわっ」 ほどよく溶けたアイスは開封の勢いと共に溢れ出て腕を伝う。 「鈴南」 名前を呼ばれ颯真の顔を見た時にはアイスの伝う腕を捕まれ舌が這う。 「んっ。」 鈴南の漏らした声と共に颯真の目と鈴南の目が合った。 「たくっおっちょこちょいだな。大人しく食えよ。」 颯真から目が離せない鈴南の頭をさっきと同様に叩く。 「う、うん…。」 「何だよ?どうした?」 「何でもないよ!こっち見んな!」 「は?騒がしい奴だな~」 そう言って颯真はまた頭をくしゃくしゃと撫でた。 そのままスクッと立ち上がり走り出し水場の蛇口をひねり開口部を塞ぎ勢いをつけ水鉄砲のように鈴南にかけた。 「止めてよー」 「これで涼しくなるだろうが」 鈴南はさっきまでの顔の熱ささを忘れようとはしゃぎだした。 颯真に思いの熱さが伝わらないように。 今年の夏もまだまだ思い出はひと夏ではまとめきれないくらい出来ますようにと願いながら。
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