デザイナーのお仕事

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「そうですね、私も探して見つけました。やっぱ刺さるんじゃないですかね、ママ世代に」  だといいな、と川崎は満足げににやりとしてノートパソコンを立ち上げる。  後ろで結ったくせ毛の長い髪にあごまで覆うヒゲ、浅黒い肌に彫りの深い顔立ちと人の個性を寄せ集めたような容姿のこの男は、こんなナリでも30代前半の若さでマネージャーを任された、いわゆるデキる男性。口が悪く怖がる人もいるが、接してみると色んなことに真剣でフェアな人間であることが分かる。気を抜くと急に雑になるのが、(たま)(きず)なのだが。 「川崎さん、化粧品のアレって、クライアント名覚えてないでしょ」  機嫌が良さそうなので少し軽口を叩いてみると、川崎はちらりとパソコンから目を上げて、またすぐに戻す。 「んなことねぇよ。でもそういうのは、メイン担当が覚えてりゃそれでいいんだよ」  つまり覚えてないということだ。大事なクライアントの名前も覚えていないなんて、と軽くため息をつきたくなるが、制作に入れば誰よりも真摯にクライアントの要望に向きあって、それに応えるために考え抜く。そんなメリハリのついた仕事ぶりは、私が素直に尊敬するところだった。
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