プロローグ

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プロローグ

 一人で生きていくこと。  心に強く刻んで、あるいは刻み込まれてから数年以上が経った今では、もはやそれを改めて自覚することもない。それに対して寂しいとか、辛いとか、そんなことできるんだろうか、なんて不安な感情もとっくに消え去っている。  一人と言ったって、私の周りにはたくさんの仲間がいてくれるのだ。彼ら、彼女らが私と時間を過ごしてくれて、私の人生に楽しい時間を分けてくれるならば、それで十分ではないか。  両親や世間様は、これを良しとしない。妙齢の女性を見つければ、やれ結婚はいつだの子どもはいつだの、まるで電車が各駅に停まるのを待つかのごとく当然その機会が訪れると思っている。  最初はそんな無邪気な声にもいちいち突っかかっていたが、やはり今ではスマートに受け流す術を覚えている。私がどういう道のりをたどってこんな決意を心に持っているか、知らないのだ。無理もない。そんな大人な考え方さえ、できるようになっている。  これは私が望んで、私が決めたこと。生きる原動力にして誇り。朝起きて仕事に向かうとき、ミスをして落ち込むとき、成果を出して評価されるとき。いつだって私は無意識にそれを手入れして、磨き上げて、ぴかぴかにカッコよくあるように、保っている。  一人で生きていくこと。これが私の、大事にしている鎧である。
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