1人が本棚に入れています
本棚に追加
女が曲り角に消え、平塚は足早に近付いて同じ角を曲がった。
すると、出会い頭に女が待ち構えていた。
真顔で眼差しを向けるその冷淡な顔つきに、平塚は思わず悲鳴を上げてしまった。
しかし、すぐさま頭を下げて通行人を装い、通り過ぎようと横を歩いた。
「あなたは、物書き?」
女が話し掛けてきた。平塚の脈拍は一瞬だけ飛んだ。何も言い返さずにいると女は続けて言った。
「パソコンで文を書く仕事をしている」
(俺の仕事を知っている?)平塚は恐る恐る振り向いた。
女は先程と同じ冷たい顔付きで平塚をまじまじと見つめて話し掛けていた。
「風俗店によく通う。最近指名した女の名前は……なるみ?」
「あんた……」平塚は自身のプライベートまで言い当てる女に、思わず口を聞いた。
「あんた、何者なんだ? この一連の事件現場に、あんたは必ず現れる」
「あなたが先。私の後をつける理由は何?」
「俺は、あんたが今言った通りの男だ。物書きって言う程立派な仕事じゃないが、文字を打って金を稼いでいる」
平塚は奇怪な事件の関連性について手短に目の前の不気味な女に話した。
「俺は売れない雑誌のお荷物記者だよ。人が喰われる怪事件を追ってるんだ。そこであんたが度々目撃されてる」
「そう。雑誌の記者なのね。でも残念。私は事件のことは知らない」
「何か知ってるんだろ? 俺があんたのストーカーじゃないって事がわかった所で、あんたが俺を喰わないかどうかを知りたい」
平塚が質問をすると女は鼻で笑った。
「あれはカジの仕業」
「カジ?」
「悪霊のこと。もう実体化してる」
「実体化? 何を言ってるんだ?」
最初のコメントを投稿しよう!