自殺スイッチ

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自殺スイッチ

2020年夏 自殺法制定  政府は世界に先駆け自殺法、別名安楽死法案を通過制定させた。それに伴い国民には自殺スイッチを体内に埋め込むことが義務化される。自殺したい場合はスイッチをOFFにすることで簡単に安楽死することができる。つまり命を簡単にのだ。  この法案と装置は国内外から批判が殺到し、人の命を軽視しているとの声が高まった。国内でも反対デモが各地で起こり、時には流血事件にまで発展した。それでも政府は強行に法案を進め、国民の全てに自殺スイッチが埋め込まれた。ただし、自殺スイッチは本人で切る事はできず、医師立ち会いの元で実行される。誤作動を防ぐためにセキュリティは厳重であった。 一年後…  喉元過ぎればなんとやらで、各地でのデモは下火となり、国民は自殺スイッチを日常として受け入れていた。死に対する議論も日常となっている。信仰心の強い海外では未だ日本に対して、神への冒涜であるといった意見が多くあった。しかし、先進的すぎる死に対する考え方は世界の注目を集めていた。自殺に対する価値観が世界で変わりつつあったのだ。  実際、自殺スイッチの導入により年間の自殺者数は激減した。それは、いつでも死ねるという安心感と医師の立ち会いによるカウンセリングが行き渡っていたことが大きい。 国立安楽死病院―――。  一人の患者が運ばれてきた。世界に例を見ない珍病で身体に激痛が走り続け、呼吸困難の症状も起こる。その苦しみは死よりも重いとされ、患者は自殺法適用を申請していた。 「先生。自殺スイッチを切って下さい」 「今申請していますから、お待ち下さい。すぐに楽になれますよ!」  その言葉を聞くと患者は笑顔になり、よかったと呟いた。痛み止めも効いているようだ。医師は患者の病室から自室に戻ると、のための準備を始めた。その指示に看護師は疑問を感じ、医師に答えを求めた。 「患者がここで亡くなっては困る。病院の収益に関わるからね。あの病気は珍しいから国からの補助金も大きいんだ。それに国だって困る。税収が減ってしまうだろう」
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