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「雅…………?」
香奈江の表情がスローモーションの様に変化していく。
「だってあれは、雅が助けてくれて」
笑顔が微かに歪み。
「…………」
記憶を手繰る様に眉を寄せる。
「何、とも…………」
僅かに唇が開き、同時に目の焦点がぼやけた。
先程買ったケーキのパッケージが香奈江の手元を離れ地面に落ちる。
「思い出した?」
彼女の足元でひしゃげた、着飾った箱。
それにも気付かず香奈江は呆然と俺を見詰めていた。
「多分、お前は無意識に自分の中でその部分の記憶を消していたんだろう」
「み、雅……?」
「記憶……俺も自分の記憶をなくしてた」
「雅、あなた……誰?」
「…………」
「『善く生きた人間が死ぬ前に、何かひとつそいつの願い事を叶える』それが俺の本来の役目……俺は香奈江に対して、その任務を負っていた」
「任…務……何、それ」
「そして香奈江の願いは……」
「『死ぬ前にホントに好きな人と誕生日を過ごしてみたかった』」
ついて出た香奈江の言葉に俺は頷いた。
「嘘。じゃ……」
「香奈江、誤解するな。……いや、してもいい」
「嫌、だって」
じゃあ、私とは全部嘘だったの? そんな悲痛な声が耳に届く。
「ひど、い」
「香奈江」
「嘘つき!! いや、嫌だ!!!」
「香奈江っ!」
取り乱す香奈江を落ち着かせようと無理に抑えようとするが精一杯手をばたつかせて俺を嫌がり、見開かれた瞳からは涙が零れていた。
そんな香奈江に言うまいかと躊躇していた言葉を口走る。
「俺は無理矢理自分の記憶を消したんだ!!」
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