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「──────」
涙を目に溜めたままの香奈江が肩を震わせている。
「こないだの入院だ。元の仲間とじゃれあってた時に高所から落ちた。わざと飛びもせず受身も取らずに。俺は死なないが、意識が無くなるか記憶をなくす事に賭けた。このままでいたかったからだ。……香奈江に気持ちが移ってたからだ」
「……このままだとどうなるの?」
未だ信じられない、というような表情だったが香奈江が今ここに居る、その事実が何より奇異である事はもう彼女には解っているだろう。
「俺と香奈江は一緒に居られる……が、香奈江が無理矢理向こうに引っ張られる感覚はもっと頻繁になる。俺たちの力が及ぶのが今日までだからだ。……そしてもう、その後は香奈江の魂は生まれ変わる事が出来なくなる」
「それじゃ、何故、私をまた生かしたの」
「そうやって願いを叶えて、また次の世に希望を持ってもらうのが俺たちの任務の目的だから。絶望の内に死ぬと魂は生きる意思を失うから」
「だってもう、こんなに私は」
焦点の合わない虚ろな瞳。
そんな涙で濡れた香奈江の顔を挟んで口付けた。
いつもの様に。
「言うな。……それを言わないでくれ」
「……みや……び」
『ホントに好きな人と』
頬から手を離すと何とか平静な表情を取り繕おうとする、正気な香奈江に戻っていた。
「私がそう口に出すと終わるから、なんだね」
ようやく理解をしてくれたらしい。
俺はゆっくりと頷いた。
「いい、言わなくて」
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