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バタン!ドアが大きく内側に開かれる音と一緒に女が飛び込んできた。
彼女のその声を聞いた瞬間、先程からの頭痛が何かに吸収されるかの様にすうっと収まった。
女が目に涙を溜めて俺を見、横になっている俺のベッドに走り寄ってきた。
その顔を顔を歪ませて。
赤い薄手のセーターに黒髪、控えめなあでやかさのある彼女の周囲に紅く丸い…椿の花々が見えた様な気がした。
「香奈江、どうした?」
自然に口をついて出て来た言葉に自分で驚きながらも声を掛けると、彼女の表情が益々崩れて大粒の涙を落とし始める。
「どうしたじゃ、無いでしょお……」
反射的に香奈江に向かって手を伸ばす。
俺の胸の辺りのシーツの上にがばっと顔を伏せて肩を震わせた。
「雅……心配した」
白のシーツに黒く真っ直ぐな彼女の髪が扇みたいに広がっている。
そして今更の様に気付いたが、病室には俺と香奈江の他には誰も居らず、入院中に頭痛に悩む事も無くなった。
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