恋人

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「雅! こっちこっち!!」 「……悪い、少し遅れた」 俺に手を振る香奈江に向かって小走りで駆け寄り息を整える。 「全然いいよ、行こ。お腹空いたあ。雅?」 「…………」 「雅、どうしたの? 何だか顔色、が…」 香奈江がこちらを伺おうと顔を近付ける前に自分の元へと肩を掴んで腕に抱いた。 「み、雅?」 もう自分に馴染んだ彼女の香りを思い切り吸い込みながらきつく抱き締める。 「雅? ふざけないで」 香奈江はくすくすと笑った。 「痛いよ」 困ったようにそう言う香奈江の言う事も聞かなかった。 「……ねえ?」 同じ様に週末の夜を楽しもうとする人々の、笑い声や浮かれた会話が傍を通り過ぎる。 「何でもない…けど、今晩は楽しもう。食事終わったらバーとか、何でも……いい」 肩にかかる彼女の髪に鼻を埋め目を閉じる。 「……? もちろん、いいよ」 そしてやっと……名残惜しむ思いで香奈江から体を離した。 「うん」 歩き出す、ガラス越しの自分の顔を確かめる。いつも通りの表情だ。 変な雅、またくすくすと笑い始めた香奈江の手を取り夜の街に雑踏に紛れて歩みを進めた。 「香奈江、お前が前に行ってみたかったって言ってた店に行こう」 「ん。 どこ?」 「パティスリー内にカフェがあって、店内でも色々食べれるって」 「えっ? でもあそこ、人気店だからもう無理だよ」 「予約してあるから平気」 「…………」 「何?」 急に黙った香奈江の表情が何かが咲いたような笑顔に変わり、繋いでいた手をぎゅっと握り返してきた。 「ううん、嬉しくて。だっていつも雅、ああいうお店行くの照れ臭いって言ってたから」 「何だそれ。たまにはいいよ。 駅の近くだよな? 行こう、もう俺も、腹減って死にそう」
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