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そうして欧風の外見をした建物の中に入ると、それに合うようにやたら可愛らしい制服の店員がにこやかに出迎えた。
週末で夕食の時間帯、やはり店は満席だった。
「あ、ねえ? 雅」
スモークサーモンのサンドイッチとローストビーフ、サラダ諸々のオーダーを迷った挙句シェアし、結局両方平らげ苦しげな香奈江が口を開く。
「あの、明日って」
「香奈江。 ケーキ食いたくね?」
言いかける香奈江の話を遮り、今いるカフェに併設しているパティスリーを指差した。
「だって雅、お腹いっぱいって……」
「見てみよう。せっかくだし」
太っちゃうよ?そう言いながら嬉しそうに俺の後について席を立つ彼女に苦笑してそちらに向かう。
大きなショーケースには色とりどりのケーキやシュークリーム、チョコや胸焼けする程の甘そうな物が所狭しと並んでいた。
それはまるでパーティのデコレーションのようで。
「オモチャみたいだ」
「うん。 どれも美味しそう」
見てるだけで何かのお祝いみたい、と香奈江が呟く。
「だってそうだし」
「え?」
「一日前だけど。 誕生日」
「…………」
「お誕生日なんですか? おめでとうごさいます」
「あ、ありがとうございます」
会話を聞いていた店員にも祝いを言われつつ店を出、香奈江にケーキの入ったパッケージを差し出す。
無言の香奈江を見ると俯いて口をへの字口に曲げている。
子供の頃から誕生日を誰かに祝われた事なんて無かった、そんな話を以前香奈江から聞いていた。
「……変な顔」
くしゃ、と香奈江の額の上の髪を撫でると顔を上げた彼女は泣き笑いみたいな複雑な表情をしていた。
その後昔からあるという高級ホテルにでもありそうな豪奢なバーに寄り、雰囲気と少しの酒を楽しんだ。
今までそんな所に行った事も連れて行った事も無かった筈だ。
「たまにはいいだろ?」
「そうね」
ショートグラスを持ち上げる時にゆらゆらと揺れる水面に驚く。
香奈江はそんな風に大人っぽい風情を取り繕うのに失敗しては照れてはしゃぎ、時々潤んだ瞳をした。
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