友人のピアニストが用意してくれたアンコール

3/4
前へ
/4ページ
次へ
「すごいね。ちょっとしたアイドル並みじゃん」  ようやく彼と話ができたのはコンサート終了後、それも延々と続いた握手会が終わった後だった。  花束やプレゼントが山のように届けられた楽屋の中で、彼の着替えの邪魔にならないように、僕は壁ぎわのイスに腰掛けた。 「アンコールの一曲目、何ていう曲? すごく面白かった」 「リゲティの『ムジカ・リチェルカータ』っていう曲集の第三曲目。いわゆる現代音楽の部類かな」 「ムジカリチュ? よくわかんないけど、僕の好みにピッタリだったよ。ありがとう」 「違う違う。お前の好みなんて知らねぇよ。あの曲はな……」  リゲティの『ムジカ・リチュルカータ』は十一曲からなる組曲で、第一曲目はレとラの二つの音しか使われていない。  第二曲目はひとつ増えて三つの音、第三曲目は四つの音と、一曲ごとに使われる音数がひとつずつ増えていき、十一曲目で十二個の音が登場するという、ユニークな曲集なんだそうだ。 「あの曲は第三曲目ってことは……え、あのかっこいい曲、たった四つの音しか使ってないの?!」 「そう、四つの音で四回目の就職を祝ったって感じかな」  そして彼はニヤリと笑ってこう付け加えた。 「“時は流れない。それは積み重なる。”だろ?」
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加