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「すごいね。ちょっとしたアイドル並みじゃん」
ようやく彼と話ができたのはコンサート終了後、それも延々と続いた握手会が終わった後だった。
花束やプレゼントが山のように届けられた楽屋の中で、彼の着替えの邪魔にならないように、僕は壁ぎわのイスに腰掛けた。
「アンコールの一曲目、何ていう曲? すごく面白かった」
「リゲティの『ムジカ・リチェルカータ』っていう曲集の第三曲目。いわゆる現代音楽の部類かな」
「ムジカリチュ? よくわかんないけど、僕の好みにピッタリだったよ。ありがとう」
「違う違う。お前の好みなんて知らねぇよ。あの曲はな……」
リゲティの『ムジカ・リチュルカータ』は十一曲からなる組曲で、第一曲目はレとラの二つの音しか使われていない。
第二曲目はひとつ増えて三つの音、第三曲目は四つの音と、一曲ごとに使われる音数がひとつずつ増えていき、十一曲目で十二個の音が登場するという、ユニークな曲集なんだそうだ。
「あの曲は第三曲目ってことは……え、あのかっこいい曲、たった四つの音しか使ってないの?!」
「そう、四つの音で四回目の就職を祝ったって感じかな」
そして彼はニヤリと笑ってこう付け加えた。
「“時は流れない。それは積み重なる。”だろ?」
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