♥14.契約魔法のせいで

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 先刻リュシーが頑なに目を閉じていたのは、いつ何時(なんどき)アンリに視界を覗かれるかわからないからだ。アンリの眷属であるリュシーには、そういう契約魔法がかけられている。  ……断じて久々のキスに流されたからではない。 「……っ」  なのに、ロイが離れると、支えをなくしたようにリュシーはぺたりと尻もちをついてしまった。  濃霧のせいもあるのだろう、地面からひんやりとした冷たさが伝わってくる。 「悪かったな。大丈夫か」 「大丈夫って……何が……」  顔を上げると、ロイが申し訳なさそうにリュシーを見下ろしていた。  リュシーは「何の問題もありませんけど」と言いながら立ち上がろうとする。  けれども、どういうわけか足に力が入らない。……まるで腰が抜けたみたいに。 (……あれ)  何度か試してみたけれど、やっぱり思うように動けない。  すると見かねたように、ロイが小瓶を持たない側の手を差し出してきた。 「何がっていうか……立てねぇんだろ?」 「!」  図星を指され、言葉に詰まった。 「ほら」 「……大丈夫ですから」  リュシーは逃げるように視線を逸らした。  ……最悪だ。  何でいきなり立てなくなってるんだ。  しかもこんなタイミングで……! 「いいから、ほら。尻、濡れるぞ」  言われた通り、ぐずぐずしている間にも、接地面からじわりと湿気が広がっていくような感覚があった。  それでもその手を取らないでいると、痺れを切らしたみたいに腕を掴まれた。 「あっ」  強い力で引き上げられる。  けれどもいまだ足元はおぼつかず、そのままロイの胸へと寄りかかってしまう。 (だから嫌だったのに)  らしくない失態に、気恥ずかしさが込み上げる。目元を隠すかのように伸ばされた前髪の下で、(まなじり)がじわりと熱を持つ。 「……案外見た目通りなんだな」 「は……?」 「反応。……キスで腰抜かすとか」 「はぁ?!」  ロイの手が、不意にリュシーの背を撫で下ろす。  心外そうに声を上げたリュシーを見下ろしたまま、ロイは僅かに口端を引き上げた。
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