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先刻リュシーが頑なに目を閉じていたのは、いつ何時アンリに視界を覗かれるかわからないからだ。アンリの眷属であるリュシーには、そういう契約魔法がかけられている。
……断じて久々のキスに流されたからではない。
「……っ」
なのに、ロイが離れると、支えをなくしたようにリュシーはぺたりと尻もちをついてしまった。
濃霧のせいもあるのだろう、地面からひんやりとした冷たさが伝わってくる。
「悪かったな。大丈夫か」
「大丈夫って……何が……」
顔を上げると、ロイが申し訳なさそうにリュシーを見下ろしていた。
リュシーは「何の問題もありませんけど」と言いながら立ち上がろうとする。
けれども、どういうわけか足に力が入らない。……まるで腰が抜けたみたいに。
(……あれ)
何度か試してみたけれど、やっぱり思うように動けない。
すると見かねたように、ロイが小瓶を持たない側の手を差し出してきた。
「何がっていうか……立てねぇんだろ?」
「!」
図星を指され、言葉に詰まった。
「ほら」
「……大丈夫ですから」
リュシーは逃げるように視線を逸らした。
……最悪だ。
何でいきなり立てなくなってるんだ。
しかもこんなタイミングで……!
「いいから、ほら。尻、濡れるぞ」
言われた通り、ぐずぐずしている間にも、接地面からじわりと湿気が広がっていくような感覚があった。
それでもその手を取らないでいると、痺れを切らしたみたいに腕を掴まれた。
「あっ」
強い力で引き上げられる。
けれどもいまだ足元はおぼつかず、そのままロイの胸へと寄りかかってしまう。
(だから嫌だったのに)
らしくない失態に、気恥ずかしさが込み上げる。目元を隠すかのように伸ばされた前髪の下で、眦がじわりと熱を持つ。
「……案外見た目通りなんだな」
「は……?」
「反応。……キスで腰抜かすとか」
「はぁ?!」
ロイの手が、不意にリュシーの背を撫で下ろす。
心外そうに声を上げたリュシーを見下ろしたまま、ロイは僅かに口端を引き上げた。
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