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「単に、驚いただけです」
「そうかぁ?」
「あんた……俺をなんだと思って、……!」
言葉も半ばに、ぐっと腰を引き寄せられる。
リュシーはいっそう間近となったロイから視線を外し、
「離してください。今日のあんた、なんかおかしいですよ」
溜息混じりに腕を突っぱねようとするけれど、先刻と同じようにそれをロイは許してくれなかった。
――どころか、気がつくとロイの呼吸は再び浅くなっていて、ますます身体を押さえつけられる。
「……?!」
リュシーは反射的にロイを見た。
かち合った金色の隻眼が、獲物でも狙うかのように細められる。さっきまでの印象と違う。瞳孔が収縮している。
……嫌な予感がした。
「違いますから!」
リュシーは自身を奮い立たせるようにも声を張り、ロイの身体を強く押した。
「ロイ!」
とにかく正気に戻れと、重ねて名を呼んだ。ロイの胸元をドンと叩いた。
その拍子に、ロイの他方の手の中の小瓶から小さく雫が飛び散った。
「あっ……」
それに気付いて、瓶が落とされてしまうのではと思ったリュシーは動きを止めた。
その刹那、ふっとロイの腕が緩む。
「……悪い。リュシー」
「悪いと思うなら、最初からしないでください」
ようやくロイの腕から抜け出したリュシーは、よろめきながらも何とか自力で立つと、すぐさま片手を差し出した。
「返して下さい、それ」
ロイの持つ小瓶へと向けて、催促するように小さく手を振る。
ロイは思い出したように自身の手元に目を遣ると、数拍何かを考えるような間を置いて、
「いいけど……ちょっと付き合ってくれよ」
「……え?」
「発情してるんだよ、俺。群れの雌にあてられて」
けれども、今回その彼女が選んだのは、別の雄だった。
「要はふられたわけ」
リュシーの必死の呼びかけに何とか我に返ったロイだったが、自嘲気味にそう言いながらも、その眼差しはどこかギラついたままだった。
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