♥14.契約魔法のせいで

5/18

987人が本棚に入れています
本棚に追加
/260ページ
「単に、驚いただけです」 「そうかぁ?」 「あんた……俺をなんだと思って、……!」  言葉も半ばに、ぐっと腰を引き寄せられる。  リュシーはいっそう間近となったロイから視線を外し、 「離してください。今日のあんた、なんかおかしいですよ」  溜息混じりに腕を突っぱねようとするけれど、先刻と同じようにそれをロイは許してくれなかった。  ――どころか、気がつくとロイの呼吸は再び浅くなっていて、ますます身体を押さえつけられる。 「……?!」  リュシーは反射的にロイを見た。  かち合った金色の隻眼が、獲物でも狙うかのように細められる。さっきまでの印象と違う。瞳孔が収縮している。  ……嫌な予感がした。 「違いますから!」  リュシーは自身を奮い立たせるようにも声を張り、ロイの身体を強く押した。 「ロイ!」  とにかく正気に戻れと、重ねて名を呼んだ。ロイの胸元をドンと叩いた。  その拍子に、ロイの他方の手の中の小瓶から小さく雫が飛び散った。 「あっ……」  それに気付いて、瓶が落とされてしまうのではと思ったリュシーは動きを止めた。  その刹那、ふっとロイの腕が緩む。 「……悪い。リュシー」 「悪いと思うなら、最初からしないでください」  ようやくロイの腕から抜け出したリュシーは、よろめきながらも何とか自力で立つと、すぐさま片手を差し出した。 「返して下さい、それ」  ロイの持つ小瓶へと向けて、催促するように小さく手を振る。  ロイは思い出したように自身の手元に目を遣ると、数拍何かを考えるような間を置いて、 「いいけど……ちょっと付き合ってくれよ」 「……え?」 「発情してるんだよ、俺。群れの雌にあてられて」  けれども、今回その彼女(めす)が選んだのは、別の雄だった。 「要はふられたわけ」  リュシーの必死の呼びかけに何とか我に返ったロイだったが、自嘲気味にそう言いながらも、その眼差しはどこかギラついたままだった。
/260ページ

最初のコメントを投稿しよう!

987人が本棚に入れています
本棚に追加