987人が本棚に入れています
本棚に追加
/260ページ
「そんなの、お前のこと気に入ってるからに決まってるだろ」
「はぁ……?」
「これでも、いつか機会があればってずっと思ってたんだよ」
「……」
「……信じてねぇな」
「はい」
あっさり頷きながらも、言われてみれば思うところがないわけでもなかった。
無理矢理地面に突き倒されるわけでもなければ、服を破られるわけでもない。掴んだ手をぞんざいにに振り払われることもないし、触れ方だって確かに優しい……気もする。
「ひでぇな。前にも誘っただろ。森の中で倒れてたあの……黒髪のぼっちゃん見つけた時」
「?」
けれども、それにはまるで心当たりがない。
リュシーが無表情のまま僅かに首を傾げていると、今度はロイが苦笑混じりに溜息をついた。「やっぱ伝わってなかったか」と独りごちるようにこぼしながら。
その刹那、リュシーは一つのワードを思い出した。
「――あ。複数プレイのことですか?」
「それは覚えてんのかよ」
ロイは一瞬ぽかんと口を開け、それから吹き出すように肩を揺らした。
「複数プレイ、したことあるのか?」
「苦手だって言ったじゃないですか」
「苦手だってことは、経験が……」
「うるさいな。違うなら違うって言やいいんですよ」
リュシーは被せ気味に遮ると、自棄になったように掴んでいたロイの手を放した。
そして、
「もういいです。やるならとっととやってください」
「いやいや、どうせなら一緒に楽しもうぜ」
「そういうの、ほんと大丈夫なんで。俺、どちらかと言えば急いでますし――」
平板ながらも、少しばかり早口にまくし立てると、
「ぼっちゃんを待たせてるからか?」
「!」
思いがけない言葉を挾まれ、危うくリュシーはロイの顔を見返しそうになってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!