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「どうせ、……出せないから」
言葉のわりに、どこか他人事のような響きがあった。
ロイは瞬き、ゆっくり顔を上げた。
リュシーは俯いたまま、はぁ、とあてつけるような溜息をついた。
「そういう魔法がかけられてるんですよ」
「は……?」
「…………俺、出すと結構な確率で意識飛んじゃうから」
早い、みたいだし……。
とまでは言わなかったものの、結局は知られたくなかったことまで白状する羽目になってしまった。
仕方ない。
だってこれを言わなければ、きっとロイはやめてくれない。やめてくれないどころか、もっと触れてくるかもしれない。
そんなことになるくらいなら、ここで少々気まずかろうが、はっきり言っておく方がましだ。
「なん、だよそれ……」
「魔法っていうか、ある意味呪いって言うべきかもしれませんけど」
自虐的に、けれども淡々と言いながら、リュシーは僅かに苦笑する。
左足首にはめられている、朱色のアンクレットをそのつもりもなく意識して、
「相手が人形だと面白くないんだそうですよ」
やはり内容にそぐわない軽い調子でそう重ねた。
「――アンリか」
まもなくロイが、確かめるようにその名を口にした。
リュシーは肯定も否定もせず、ただ笑うように微かに肩を揺らした。
「まぁ、だからって別に困ってもいないので……もう慣れましたし」
「慣れたって……」
「大丈夫、相手はできますから」
「……相手、……」
リュシーが今、頑なにこちらを見ようとしない理由もアンリにあるのだろうか。
思い至ったロイが、ひとまずリュシーの下腹部から手を退くと、リュシーはほっとしたように背後の樹――身体の脇へと手を戻した。かと思うと自分でも体勢を支え直し、「ということなので、続きをどうぞ」とばかりに警戒を解く。……ただし、その目はやはり閉じられたままだ。
「リュシー、俺を見ろよ。お前の目が見たい」
ロイはおもむろにリュシーの頬に触れ、試すように伏せられた瞼を隻眼で見つめた。
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