15.霧の中で

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「ほら、とっとと飲んで」  リュシーは幾分苛立ったように言いながら、改めてて小瓶を差し出した。  ジークはふるりと一度大きく頭を振って、今度こそそれを受け取った。 「……全部飲んだらいいんですか?」 「そうです。早く」 「は、はい」  急かされるままに蓋を開け、瓶の口を唇に押し当てる。  ゆっくり上向いてこくこくと喉を鳴らしていると、視界の端――リュシーの背後――に見たことのない人物が立っていることに気付いた。  アンリよりもラファエルよりも上背がありそうな、精悍な佇まいの男。  けれども、その頭には獣のような耳があり、背後で揺れているのは……ふさふさした尻尾? そのギャップに思わず目を瞠ると、最後のひと口を飲み込むタイミングを逸してしまった。 「っげほ、……っ」  むせた拍子に、少量の液体が口からこぼれた。 「……何やってるんですか」  呆れ混じりに言いながらも、リュシーが背中をさすってくれる。 「今ので、少しこぼれましたよね」 「……すみません」  ジークは濡れた口許を手の甲で拭い、蓋をした小瓶を差し出しながら、再び小さく頭を下げた。  それを受け取ったリュシーが背後を見遣ると、待っていたように後ろの男がバスケットの蓋を開ける。 「こぼれたって言っても、ほんのちょっとだろ」 「はい。……なのでまぁ、大丈夫だとは思いますけど」  バスケットに空の小瓶が戻される。男はそれを持ったまま踏み出し、ジークの傍へと近づいた。 「……こんなヤツだったっけ」  無遠慮に身を屈め、地面に座り込んだままのジークの顔をじっと見下ろしたのはロイだった。ロイは隻眼を細めて、値踏みでもするかのようにジークの全身をゆっくり眺めた。 「なんでこれに……」  〝これ〟と言われて、ジークは瞬く。  リュシーが隣で微かに苦笑した。
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