15.霧の中で

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「……まぁ、そういう種族特性ですから」  抑制剤()が効いたらしく、ジークの身体はほとんど平素の状態に戻っていた。  強制的に高揚感を煽るような匂いも随分薄れ、そこにいるだけで誘うような色香もすっかり消えている。  乱れた髪に、肌蹴かけた服。上気した頬に、潤んだ瞳。そういった名残はあるものの、どうにもそそられるものがない。  言ってしまえば、髪は寝癖、服は寝相に起因するもののようで、ところどころに付いている草の葉や枯れ葉がひらりひらりと落ちる様にも何だか毒気を抜かれるばかりだった。  先日会った時の様子――ジーク自身が気絶するほど発情した状態――を思いながら、ロイは僅かに肩を竦めた。 「……? あの、あなたは俺を知ってるんですか?」 「あぁ、まぁちょっとな」 「そう、なんですか……」  話が見えず、疑問符を浮かべながらも、そう答えたジークの瞬きは次第にゆっくりになっていく。次いで込み上げた欠伸をかみ殺すと、それを合図にしたようにふっと意識が遠退きかけた。 「あ、あれ……?」  ジークは急激に襲ってきた眠気に戸惑うように目を擦り、頭を振った。  だがそれも薬効だ。結局は抗いきれず、ぐらりと上体が傾いてしまう。  思考が霞む。瞼が重い。傍にいるはずの二人の気配も声も、あっという間に遠くなる。 「おっと……」  地面へと倒れ込みそうになったジークの身体を、ロイが支える。  驚くロイの耳に、規則正しい寝息が聞こえてくる。どうやら眠ってしまったらしい。 「薬が効いたようですね」  その背後で、リュシーがほっとしたように息をついた。 「効いたようですねって……」  ロイは瞬き、ジークに手を添えたまま背後を振り返る。  するとその視線の先で、今度はリュシーの身体がぐらついた。 「え……」  かと思うと、次には足元へと崩れ落ちてしまい――。  とさり、と草の上に身を倒したリュシーの姿に、ロイは目を丸くする。  事態の収拾に気が抜けたのか、と同時に、一気に疲れが出てしまったのか――。どちらにせよ、リュシーの意識は既になかった。  ロイは束の間固まった後、ぴくりとも動かなくなった二人を交互に見遣った。 「え――――」  遅れて上がった、どこか間の抜けた声が、ようやく霧の薄らいできた森の中に響き渡った。
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