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* *
……ったく、どいつもこいつも……頭の中ヤることしかないのかよ。
振り返ることもなくアンリの家へと戻る道中、リュシーは何度も溜息をついた。
アンリやジークは種族がら仕方ないとも思うのだ。ロイだって最悪、発情している時ならわからなくもない。(まぁ、それだってリュシーが相手をしなければならない理由にはならないが)
とはいえ、どのみちこんなふうに手近だというだけで狙われては堪らない。今更自分の貞操にこだわりはないけれど、そこまで気軽に使われる謂れもないのだから。
そうぼやくように思いながらも、
「まぁ、これは助かったけど……」
手の中にある、たっぷりと蜜の入った小瓶を目にすると、うっかりまぁまたいつか機会があればな……なんて考えてしまったりもする。
……だってまさか、あのジークがあれほどしっかり採集してくるとは思わなかったから。それもリュシーとは途中ではぐれているのに、その状況で向こうの方が多いなんてことになったら、やっぱり肩身が狭い。
――そう、これはある意味借りだから。
* * *
……いや、確かに仕方ないとは思ったけど。
思ったけど……。
明け方、まだ日も上がらないうちにアンリの寝室から呼び鈴が鳴った。
人型になって駆けつけてみたら、そこにはあられもない姿のジークが――。
扉を開けた時、アンリの姿は既に寝室の奥にある浴室へと消えていた。
もちろん何の説明もなしに……。
狭いながらも、お湯が出るシャワールームは他にもあった。普段のリュシーやジークは、裏の小川で水浴びすることも多かったが、天気が悪い日などはそこを使うこともあった。
……とはいえ、この状態のジークをその狭い浴室に放り込むわけにはいかない。つまりこういう場合はリュシーが彼の世話をすることになるのだ。……初日のように。
ジークの身体を隅から隅まで丁寧に清めて、何事もなかったように服を着替えさせる。……そこには中の処理も含まれている。
そうして清潔なシーツの上に寝かせ、最後に風邪をひかないようちゃんと上掛けをかけてやる。そこまでが事後におけるリュシーの仕事だ。
当然、そこに断るという選択肢はなかった。
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