18.魔法の訓練

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「カヤさん、少し遅れるそうです」 「あ、そうなんですね。わかりました、ありがとうございます」  朝食の後、廊下の掃き掃除をしていると、背後からリュシーに声をかけられた。  ジークはすぐさま振り返り、背筋を伸ばして頭を下げる。きわめて普段通りの、明るい笑顔を浮かべて――。 「……え、あの……リュシーさん」  けれども、その表情がにわかに曇る。 「なんですか?」 「その……えっと」  ジークは思わずリュシーの顔をじっと見た。それから手元を指差して、 「それ、貸して下さい。俺が運びます」  言うなり、持っていた箒を壁に立てかけ、リュシーの方へと踏み出した。  リビングダイニングから出てきたリュシーの手には、数枚の手巾がかけられた水桶(ばけつ)が握られていた。それが妙に重そうに見えたのだ。  リュシーは意外そうに瞬いた。 「え……」 「いえ、何だか体調……良くないように見えて」  今日に限ったことではない。実はここのところずっとそう思っていた。  ジーク(自分)はすこぶる調子がいいけれど、反してリュシーはどうだろう。連日とは言わないまでも、日によってとても疲れているように見える。  それが自分のせいだとは夢にも思わず、ジークはリュシーの手元に手を伸ばした。 「貸して下さい」 「いえ、大丈夫です」  なるほど、と思ったものの、リュシーはにっこりと微笑み、慎ましやかに一歩下がった。  ……心の中で、「誰のせいだと思ってんだ」と毒づきながら。
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