988人が本棚に入れています
本棚に追加
/260ページ
「こんなふうに、君の名前が出てくるはずだから」
「そう、なんですか」
「うん。多分近いうちに。……恐らく。きっと。……そのはず……」
言いながらも、微妙に自信がなくなってきたのか、誤魔化すようにカヤの声が小さくなる。
かと思うと、それを更に誤魔化すように、一転、また明るい声が響き渡った。
「大丈夫! 君が魔法使いの血を持っているのは間違いないから。時間の問題!」
「は……はい」
「とりあえず毎日寝る前にぎゅってしてみて。で、無事名前が刻まれたら、教えて。次に進むから」
ぎゅってして、の意味は少々はかりかねるが……。
思いながらも、カヤの根拠のない自信に気圧され、
「わ、わかりました!」
気がついた時には、ジークは敬礼でもしそうな勢いで頷いていた。
* * *
カヤに箒を渡されてから、ひと月が過ぎていた。
しかしながら、近いうちに、時間の問題といわれたわりに、いまだに柄はきれいなままだ。
それに落ち込む一方で、ジークのアンリへの夜這いは続いていた。
いまだ本人はそれに気付かないまま……。
「……いい天気ですね」
昨夜もアンリの寝室を訪れていたジークは、今日も嫌味なくらい清々しい心地で空を見上げる。なのにその声はどこか陰りを帯びているようにも聞こえ、カヤは切り株のテーブルに持参した焼き菓子を並べながら小さく首を傾げた。
恒例ともなっている、習練のあとのティータイムでのことだった。
最初のコメントを投稿しよう!