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「箒のこと、気にしてる?」
カヤが気遣うように訊ねてみると、ジークは頭上を仰いだまま小さく瞬いた。
「あ、はい……それもあるんですけど」
空から下ろした視線が、どこか所在なげに揺れる。
それが改めてカヤを捕らえた時、リュシーがハーブティーを持って現われた。
「あ、ありがとう」
カヤがリュシーの入れるハーブティーをリクエストしていたからだ。
リュシーはポットやカップの載ったトレイをテーブルに下ろし、手慣れた所作で二人分のハーブティーを用意する。家からは少々距離があったが、茶器が魔法を帯びているため中身は全く冷めていない。
「すみません、ありがとうございます」
目の前に置かれたカップを見下ろして、ジークもペコリと頭を下げる。
それから数拍黙り込み、意を決したように口を開いた。
「最近、その……ちょっと考えていることがあって」
「うん? なになに。俺でいいなら、何でも言ってみて」
「すみません……こんな話、誰に言っていいのか分からなくて」
そのわりにまたしても言い淀むジークは、僅かな逡巡の末、自分を落ち着かせるようにもハーブティーをひと口飲んだ。
(……こんな話って、どんな話だよ)
リュシーはその後ろ――切り株から数歩下がったところで、給仕らしく見るともなしに、聞くともなしに、あくまでも我関せずという態度を貫いていた。とは言え、二人の会話が聞こえないわけではないので、心の中では思わず呟いてしまう。
そこでカヤもカップに口を付けた。美味しい、と素直に顔を綻ばせ、そうして何でもないみたいにジークに先を促した。
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