♥19.夢か現か

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 アンリはそろそろ薬を変えてみるかと考えていた。……繰り返される状況に飽きてきたためとはあえて言うまい。  ちなみに、霧霞の花の蜜と青い薔薇を使った薬で作った媚薬は品質もよく飛ぶように売れた。  材料が貴重なのもあってかなり高値に設定していたが、世間にはそれだけ好き者や不埒な者が多いのだろう。それでも販売に回したものは即日完売という人気商品になっていた。  高揚感は強く出るのに、意識はきわめてクリアなまま保たれるのだ。感度も精力も上がり、持続性も高い。得られる多幸感もほどよく続き(要は賢者タイムの訪れが緩やか)、そのくせ中毒性はなく、対応に困るような副作用の報告も今のところ受けていない。  特にプライドが高く、理性的な情事を好むタイプに受けが良かった。客に言われた言葉を借りれば、〝品のある媚薬〟――その一方で、不能で悩んでいる者に効果があったことも大きかったらしい。  経口摂取の他に、潤滑剤としての使用でも作用するため、手軽さもある。アンリも一度治験として目の前で知り合いに使わせてみた(こちらは合意の上)が、確かに悪くない仕上がりだと自分でも思った。  *  *  その日の就寝時、アンリは寝室にその媚薬をひと瓶持ち込んでいた。  一つ、試してみたいことが浮かんだからだ。  今夜ジークが来るとは限らない。  だが昨日、一昨日と来ていないため、そろそろ来る頃だろうことは予想がつく。  アンリはナイトキャップを被りながら、ベッド脇のサイドテーブルの上に置かれた小瓶を見遣って僅かに目を細めた。    あれほど意識が保てるのなら、ある意味気付薬(きつけぐすり)のような効果もあるのではないだろうか。  もしそうであるなら、あの酩酊状態のジークを途中で正気に戻すこともできるかもしれない。  まぁできるできない以前に、そんな状態の相手に使ったらどうなるのか、製造者として確認しておくのも悪くないと思ったのだ。  ……もちろん、単純にそれも一興と思ったことも否定はできないが。
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