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「もっとしっかり腰を落とせ……忘れたのか」
「は……はひ、ぁ……ん、ん……っ」
ジークは舌足らずな吐息を漏らしながら、アンリの腰に跨っていた。ベッドの上に座ったアンリの中心に、対面したままゆっくりと腰を下ろしていく。アンリの肩に片手を置いて、他方で自らあわいを開き、
「ぁ……っ入ら、な……」
必死にその先端を飲み込もうとするが、それがなかなか上手くいかない。
すでにこれまでに何度もやってきたことなのに、どうして今夜に限ってできないのだろう。
アンリの硬度は十分だし、すでに何度も穿たれているそこが今更受け入れられないはずがないのに。
「で、でき、な……」
もどかしく思いながらも、ジークは食みかけては逃すそれに弱音を漏らす。
「……お前」
そこでふとアンリは気づいた。
いつからか、ジークがアンリの目を直視しなくなっている。
あんなにも誘うように蕩けた眼差しを向けてきていたのに、目端を赤く染めたまま、どこか逃げるように視線が逸らされていた。
「私を見ながら入れてみろ」
「ぁ……それ、は……」
直接促してみても、やんわりと拒否られる。恥じらうようにゆるりと首を振られてしまった。
先ほどまでと様子が違う。
これも薬の効果だろうか。それとも、そうやって相手を翻弄しようという雌型の習性でもついてきたのか――。
アンリは見定めるよう目を細め、片手でジークの顎先を捕らえた。
もちろん、後者だったとしてアンリが黙って翻弄されてやるはずもない。
「私を見ろ」
「っ……」
逆らいきれず、ジークの目がアンリに向く。
視線がかち合うと、戸惑うように瞳が揺れた。
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