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ひどく今更なことに葛藤してしまうのは、もちろん今夜のような夜這いに関する記憶がジークの中にないからだ。
ジークからすれば、発情したのはここに来てすぐの2度だけで、後に森で多少の兆候はあったものの、薬を飲むことでちゃんと抑えられたという認識しかない。
それ以外には何もない――先日薬を変えてからというもの、いたって平穏な日々を過ごしていたつもりだったのだ。
(それが何で、こんな、突然……っ)
最初はジークの部屋かと思った。何故発情中でもない自分の部屋にアンリがいるのかと――。
けれども、目が慣れればすぐに分かった。
ジークも掃除のために何度か入ったことがある、ここは確かにアンリの寝室だ。
この期に及んでアンリが嘘をつくとは思えない。
ということは、ジーク自らこの部屋に来たというのに間違いはないのだろう。
……そう頭では思うのに、どうしても腑に落ちない。
だってあんなにも状態は落ち着いていたのだ。ここ二ヶ月ほどは、自分で慰めようと思うことすら一切ないほど清らかな生活を送れていると思っていた。
「あっ……あの、これ、俺……ひ、発情……なんですか……?」
となれば、考えられるのは一つしかない。
ジークが自分の意思以外で人肌を求めてしまったとすれば、答えはもうそれ以外に考えられなかった。
「恐らくな」
「お、恐らくって……っ」
「私にもよくわからん。お前の症状は私の持つデータにない」
「え……っそ、それって、どういう……?!」
ぎゅっとアンリの首に抱きついたまま、それでもどうにか理性的に言葉を紡ぐ。
身体の疼きはまるで止まらないものの、妙に冴えた頭がそれを可能にさせていた。
「あぁっ、あ、や、待……っ。まだ、動かないでくださ……!」
「動いているのはお前だろう」
「っ! そ、そんな、はず……っ」
平然と返され、改めて意識する。
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