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抗う意志はあるのに、眼差しはすっかり蕩けている。
次第に頭の中もふわふわとして、いっそこのまま流されてしまえば……と囁く自分が現れる。
どうせ居た堪れないと思うなら、さっさと済ませてしまえばいい。全てを認めて、受け入れて、素直に身を委ねればいいのだ。
その方がきっと早い。そうして本能が満たされれば、さすがに解放されるだろう。
この狂おしいほど甘やかな葛藤から――。
「……っ」
ジークは迷いながらも目を閉じる。
このまま意識を手放してしまえれば、これこそ僥倖なのにと思いながら。
「一つ言っておく」
けれどもそれをアンリが阻む。当然のように。
ジークは際に溜まっていた涙を弾きながら、「え……?」と再び瞼を上げた。
「私は人形を抱く趣味はないからな」
「人、形……?」
アンリはジークの心算を見透かしたように、不意にひらりと指先を動かした。
瞬間、アンリの手の中に現われたのは、細めの黒いリボンだった。ちょうどアンリがいつも髪を束ねているのに使っているような――。
滲む視界でそれを捕らえたジークは、訳が分からず疑問符を浮かべた。
そこでまたアンリの指が小さく動く。
指の隙間からするりと抜け落ちた――かのように見えたそのリボンは、そのままジークの下腹部へと触れて、
「え……っあ?! ぃい……っ」
かと思うと、あろうことかその根元へとくるくる巻き付き、最後に可愛らしいリボン結びを作り上げた。
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