♥19.夢か現か

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 (あらが)う意志はあるのに、眼差しはすっかり(とろ)けている。  次第に頭の中もふわふわとして、いっそこのまま流されてしまえば……と囁く自分が現れる。  どうせ居た堪れないと思うなら、さっさと済ませてしまえばいい。全てを認めて、受け入れて、素直に身を委ねればいいのだ。  その方がきっと早い。そうして本能が満たされれば、さすがに解放されるだろう。  この狂おしいほど甘やかな葛藤から――。 「……っ」  ジークは迷いながらも目を閉じる。  このまま意識を手放してしまえれば、これこそ僥倖なのにと思いながら。 「一つ言っておく」  けれどもそれをアンリが阻む。当然のように。  ジークは際に溜まっていた涙を弾きながら、「え……?」と再び瞼を上げた。 「私は人形を抱く趣味はないからな」 「人、形……?」  アンリはジークの心算を見透かしたように、不意にひらりと指先を動かした。  瞬間、アンリの手の中に現われたのは、細めの黒いリボンだった。ちょうどアンリがいつも髪を束ねているのに使っているような――。  滲む視界でそれを捕らえたジークは、訳が分からず疑問符を浮かべた。  そこでまたアンリの指が小さく動く。  指の隙間からするりと抜け落ちた――かのように見えたそのリボンは、そのままジークの下腹部へと触れて、 「え……っあ?! ぃい……っ」  かと思うと、あろうことかその根元へとくるくる巻き付き、最後に可愛らしいリボン結びを作り上げた。
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