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* * *
あの夜からまもなく、服用する薬が変わった。
例の媚薬を参考に作られたという、青い薔薇の成分が入った薬に変更になったのだ。
すると嘘みたいに夜這いもなくなり、結果としてリュシーの寝不足も解消された。
ちなみに、あの日も最後には意識を手放してしまったため、目が覚めた時には既に身体は就寝前の状態に戻されていた。
ただし、その日は前夜の記憶があった。
そこでようやくジークは気付いたのだ。
これは誰かが――恐らくはリュシーが――、自分の意識がない間に、事後処理をしてくれたということなのだろうと。
しかも、アンリの話によると、記憶がないだけでそれまでにも似たようなことが何度も繰り返されていたらしい。いや、繰り返していたのはジークなのだが、要は自分が特に爽やかな朝だと思っていた日こそ、リュシーが大変な目に遭っていた日だったというわけだ。疲弊するのも無理はない。
それを知ったジークは蒼白となり、リュシーと顔を合わせるなりとにかく謝罪した。危うく土下座する勢いで床に座り込んだジークに、リュシーは束の間呆気にとられたものの、すぐさま「気にしないでください」と顔を上げるよう促した。
……やっぱりリュシーさんは優しい。
ジークは心を震わせながら、きっともう彼には頭が上がらないと思った。
そしてリュシーの体調が回復して本当に良かったと涙を浮かべたのだった。
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