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「ちょっといいですか」
「いって! ちょっ……離せって、このボケ!!」
アンリの返事も待たずに、ラファエルが部屋に入ってくる。
その手がドアの外から引っ張り込んできたのは、ぎゃーぎゃーと騒がしい褐色の肌の男――。
(あ……この前の)
ジークは先日、花の蜜を集めに入った森の中で二人に会っていた。
記憶に残っていたそれを思い出し、小さく瞬くと、
「何の用だ」
テーブルの向かい側で、面倒くさそうに息をついたアンリに目を戻す。
「すみません、ちょっと外に出ていた間に……」
次いで聞こえて来た声は、またしてもドアの方から。
再びジークが視線を向けると、少しばかり慌てたように顔を覗かせていたのはリュシーだった。
リュシーはこの後、家の周りの草抜きをしようと思っていた。その準備のために席を外していたのだ。
結果としてその隙に、なんの取り次ぎもなくラファエルが独断で部屋に上がり込んでしまった。ギルベルトを連れて。……いや、引きずって。
「あぁ、リュシー。すみません、一応声はかけたんですけど……ちょっと急いでいて」
「もういい。いいから要件を言え、ラファエル」
アンリが先に口を挟むと、リュシーはひとまずほっとしたように息をつく。それから無言のままテーブルの上に置いてあったポットを回収すると、キッチンへと消えた。
「失礼します」
ラファエルはギルベルトの後襟を掴んだまま、テーブルの傍まで足を進めると、
「おはようございます。えっと、ジーク……であってますよね」
「あ、はいっ」
声をかけられ、弾かれたように顔を上げたジークに、きわめて害のなさそうな笑みを向けた。
片手はしっかりとギルベルトの服の後襟を掴んだまま――。
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