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「いいからまず離せっての! そもそも俺は関係……」
「本当だ、今は特に影響ないんですね」
ギルベルトの言葉を阻むようにこぼしつつ、ラファエルはジークをじっと見つめる。
ギルベルトは腹立たしげに舌打ちを漏らし、振り払うようにしてラファエルの手から離れた。
「だからさっきからそう言ってんだろうがっ」
吐き捨てるように言って、ギルベルトは勝手に空いていた椅子に座る。何気なく巡らせたその目が捕らえたのは、テーブル中央に置かれたかご盛りの菓子だった。
早速手を伸ばす様子にアンリは呆れたように目を細めるも、特に諫めるようなことはしなかった。それすら面倒に思えたらしい。
「あ、ど、どうぞ」
そこでジークがはっとしたように立ち上がる。
この円形のテーブルには、常備されている椅子が三つしかないため、自分が座っていてはラファエルが座れない。
椅子から下がったジークは、改めてラファエルに座面を示した。
リュシーが入れたハーブティーはジークも飲ませてもらっているので、食後にアンリと二人でしばらくテーブルについていることも多かった。その背後に給仕のタイミングを待つリュシー。場合によりリュシーは席を外しているが、いつのまにかそんな光景が当たり前になっていた。
ちなみにそのささやかな時間を、ジークは密かに気に入っている。
「俺、席外します」
ジークは背筋を伸ばし、更に一歩後ろに下がった。
そのままぺこりと頭を下げて、足早に扉の方へと歩いて行く。
廊下に出ようとしたところで戻ってきたリュシーに「草抜き手伝います」と小声で告げ、後はその脇をすり抜け、急くように部屋の外に出た。
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