20.束の間の

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 *  *  先に外に出たジークは、まずは家の壁際に沿って手を入れていくことにした。  日陰での作業だからと、フードも手巾も被らず軽装のまま、ひとまず黙々と目につく雑草を抜いていく。  この辺りの気候は、一年の四分の三ほどは比較的寒暖差の少ない穏やかなもので、季節で言うと、冬だけ少々厳しかった。結構な積雪があり、人の往来自体難しくなるため、うち一月(ひとつき)前後はほとんどの人が冬籠もり状態で過ごすことになる。  そんな厳しい冬がくるまでにはまだ少しあるが、そうは言ってもここにきてもう数ヶ月もの時間が流れている。  せめて冬籠もりとなる前に騎士寮に……騎士団に戻りたい。  だがその相談は、また後日ということになりそうだ……。 (っていうか……ラファエルさん、だっけ。用事って……俺の話かな)  リュシーは予定外の客人のもてなしにしばらく手を取られるだろうから、その分、自分が頑張らなければ。  思いながらてきぱきと手を動かしていたものの、その一方でさっきのラファエルの反応がずっと気になっていた。  ラファエルが連れてきた人物も、名前は知らないが面識のある相手だった。  初めて発情したと思われる日、寮のルームメイトから言われたように、やたらジークのことを〝匂う〟と言ってきた、恐らくは純粋な人間ではないのだろう風貌の男……。 (とりあえず、今度会ったら名前くらい教えてもらおう……)  どこか外れたことを考えながらも、ジークは更に記憶を辿った。 「っていうか……俺……」  彼らに会った時、ジークはいつも発情の兆しを見せていた。  だがその間ずっと酩酊状態にあったわけではないので、途切れがちながらも思い出せることは多い。  そこでふとあることを思い出す。
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