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「――俺、あの人に……」
あの日ジークは、ようやく名乗り合ったばかりのラファエルに自分からキスをしてしまった。
冷静にいなされ、すぐに我に返ったためそれ以上何があったわけではないけれど、ジーク自らしかけたことには変わりない。
(う……あんな天使みたいな人に何てことを……)
草を掴んだ手が止まり、一気に顔が熱くなる。
ラファエルは何事もなかったかのように振る舞ってくれていたけれど、ここは改めて謝った方がいいのだろうか……。
頭の中がぐるぐるとして、目眩がするように額を押さえる。
その拍子に頬にも少し土がついたけれど、本人は気付かない。
(これからもあんなふうになるのかな)
ちゃんと自分で制御できなければ、誰彼構わずまた手を出してしまったりするのだろうか。
(そんな状態で、騎士団には戻れない……)
戻れないというか、まず騎士団側からの許しが出ない気もする。
やはり一度アンリと話をしなければならない。
しっかり対応策などを教示してもらい、アンリの傍にいなくても、自分だけで何とかやっていけるようにならなければ。
現にアンリは同じ淫魔だというのに、特に薬などは飲んでいないようだ。ということは、ジークだってそうなれる可能性はあるに違いない。
(……今日がだめでも、また近いうちに)
少しゆっくり時間をもらって……。
ジークは一つ頷くと、顔に触れていた手を地面に戻し、目の前の雑草を手早く引き抜いた。
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