20.束の間の

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 *  *  *  時間は少しさかのぼり――。 「彼って、本当に淫魔なんですか? あなたと同じ?」  ジークが出て行った方向をちらりと見遣り、空いた椅子を引きながら、ラファエルがアンリに目を戻す。  先に座っていたギルベルトは、会話に参加する気は更々ないようで、誰の許可もなくテーブルに置かれていた菓子のかごを自分の方へと引き寄せていた。  アンリの好む焼き菓子は、ギルベルトの好物でもある。ギルベルトは目をキラキラさせながら、その一つを勝手に手に取ると、敷紙を剥がすのももどかしくそれにかぶりついた。「うまっ」と口の中でこぼしつつ、へにゃっと一瞬幸せそうな表情をする。 (……何て顔してんですか)  一転してまるで無防備なそれを横目に、ラファエルは心の中で呟くも、 「確かアンリにも淫魔の血が入ってるって話でしたよね……?」  ひとまず大人しく椅子に座り、話を続けた。 「まぁ、同じと言えば同じだが、違うと言えば――」 「全然(ちげ)ぇだろ」    その横で、リュシーが新たに用意したハーブティーをそれぞれのカップに注いでいく。注ぎ終え、テーブルにポットを置くと壁際に下がり、するとアンリの言葉を遮るようにギルベルトが言った。 「だって俺、アンリのこと抱きたいと思ったことねぇもん。美味そうだと思ったことも――」 「あなたは黙っててください」 「相変わらず阿呆な悪魔だな」  ラファエルと共に呆れたアンリが、ハーブティーのカップを傾けながら溜息を重ねる。
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