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「何でだよ! そこ重要だろうが!」
「そこってどこです」
「だから、お前が知りてぇのは結局、この俺さまがどういう相手にその気になるかってことだろ?」
「それは自惚れすぎですよ」
しゃあしゃあと言い切るギルベルトに、ラファエルはさらりと返したものの、その胸中は複雑だった。あながち間違ってもいなかったからだ。
ラファエルがアンリ邸を訪れたのは、アンリに確認するためだった。
端的に言えば、淫魔と悪魔の関係を。裏を返せば、ギルベルトが嘘をついていないかということを。
「痴話げんかなら他所でやれ」
そんな二人に冷ややかな視線を送り、アンリは持っていたカップをソーサーに戻した。
次の菓子へと伸ばしかけていたギルベルトの手が一瞬止まる。
「は?! どこが痴話げんかなんだよ?! ふざけんな!」
けれども次にはそう言いながら、すぐに掴み取った菓子を口へと放り込む。
口いっぱいにそれを頬張ったまま、バンと力任せに机を叩く。陶器がぶつかる音を立て、カップから雫が小さく跳ねた。
「……あっ。あ――もしかして。もしかしてアンリも、俺のこと気になってんの?」
かと思うと、突然何かひらめいたみたいに高い声を上げる。
「まぁ仕方ねぇよな。俺さま格好いいし……」
「…………」
「あ、どうしてもっていうなら、抱いてやらないこともないぜ? 特に好みじゃねぇけど、お前見た目は悪くねぇし。俺には劣るけど」
と、とたんに機嫌を良くしたギルベルトを、アンリが微塵も感情の見えない眼差しで一瞥する。それに気付かず、したり顔で菓子を食べ続けるギルベルトを、ラファエルが「ギル。もうその辺で」と苦笑気味にたしなめた。
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