20.束の間の

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「何でだよ! そこ重要だろうが!」 「そこってどこです」 「だから、お前が知りてぇのは結局、この俺さまがどういう相手にその気になるかってことだろ?」 「それは自惚れすぎですよ」  しゃあしゃあと言い切るギルベルトに、ラファエルはさらりと返したものの、その胸中は複雑だった。あながち間違ってもいなかったからだ。  ラファエルがアンリ邸を訪れたのは、アンリ(当事者)に確認するためだった。  端的に言えば、淫魔と悪魔の関係を。裏を返せば、ギルベルトが嘘をついていないかということを。 「痴話げんかなら他所でやれ」  そんな二人に冷ややかな視線を送り、アンリは持っていたカップをソーサーに戻した。  次の菓子へと伸ばしかけていたギルベルトの手が一瞬止まる。 「は?! どこが痴話げんかなんだよ?! ふざけんな!」  けれども次にはそう言いながら、すぐに掴み取った菓子を口へと放り込む。  口いっぱいにそれを頬張ったまま、バンと力任せに机を叩く。陶器がぶつかる音を立て、カップから雫が小さく跳ねた。 「……あっ。あ――もしかして。もしかしてアンリも、俺のこと気になってんの?」  かと思うと、突然何かひらめいたみたいに高い声を上げる。 「まぁ仕方ねぇよな。俺さま格好いいし……」 「…………」 「あ、どうしてもっていうなら、抱いてやらないこともないぜ? 特に好みじゃねぇけど、お前見た目は悪くねぇし。俺には劣るけど」  と、とたんに機嫌を良くしたギルベルトを、アンリが微塵も感情の見えない眼差しで一瞥する。それに気付かず、したり顔で菓子を食べ続けるギルベルトを、ラファエルが「ギル。もうその辺で」と苦笑気味にたしなめた。
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