20.束の間の

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「アンリ、このお菓子いくつかいただきますね」  続けてラファエルはアンリにそう告げ、手早く掴んだいくつかの焼き菓子をギルベルトの前へと差し出した。 「ギル。これ持って先に帰っててください」 「あ? 何なんだよ、お前が無理矢理連れてきたくせに……」 「あなたを連れてきたかった用事はもう済みましたし、後で他にも買って届けますから」  アンリは目を伏せ、ただ自身のカップを口元に寄せる。そんな二人のことなど見えないみたいに。 「酒も。酒も買ってこいよ。だったら言うことを聞いてやる。今日のところは」 「わかりました」 「ちっ……」  ギルベルトは舌打ちし、それでももう一つだけ、とかごから摘まみ上げた小さめのカップケーキを口に放り込むと、最後に流し込むようにハーブティーを飲み干し、席を立った。  面倒くさそうに辺りを見渡したギルベルトは、つかつかと近くの窓に歩み寄り、そのままそこから外に出る。  またそんなところから……とこぼしつつも、その背を見送ったラファエルが、アンリに「失礼しました」と代わりに告げれば、 「カヤの菓子だからな」 「……わかってます」  けれどもそこに触れる返事はなく、ただ減った菓子の補填を念押しされてしまった。  *  *  * 「相変わらずお前の趣味は理解できんな」  リュシーを下がらせ、ラファエルと二人きりになったアンリは、改めて呆れたように息をついた。 「そうですか? 可愛いじゃないですか。素直で分かりやすくて」 「どう見ても単なる阿呆だろう」  ラファエルは「そこがいいんですよ」と苦笑しながら、気を取り直すようにハーブティーに口をつけた。  反してアンリはカップをソーサーに下ろし、ギルベルトが荒らしたカゴの中から、比較的綺麗なままの焼き菓子を一つ手に取ると、それを上品に口に運ぶ。 「……で、本題は何だ」 「あぁ、それなんですけど」  ややして、思い出したように促され、ラファエルは小さく頷いた。
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