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「悪魔が淫魔の匂いに敏感っていうのは本当なんでしょうか?」
カップを下ろし、気持ち背筋を正してから、神妙そうにアンリを見つめる。
アンリは「なんだ」とばかりに一瞥し、他人事のように答えた。
「まぁ、確かに他の種族に比べると嗅ぎつけてくるのは早いようだな」
「そう、なんですか……」
「だがまぁ、覚醒している淫魔自体、現在はそういるわけではないからな。そこまで気にするほどのことでもあるまい」
アンリは適当な一般論を口にしながら、カップの残りで喉を潤す。
だがラファエルはそれでは納得がいかないようで、すぐさま「いえ」と首を振り、僅かに身を乗り出した。
「気になりますよ。現にさっきの彼には何度か惹かれているようですし」
「あぁ、ジークか」
「何とかならないんですか? 同じ淫魔だという、アンリには何ともないようなのに……」
珍しく焦燥感をにじませるラファエルに、アンリはあえて平然と言う。
「私は雄の血だからな。もし私のフェロモンに当てられるようなことになれば、あの阿呆自ら股を開」
「ちょっ……ちょっと! 待ってください」
それをラファエルが慌ててそれを阻む。
「……真顔で変なことを言うのはやめてください」
思いの外動揺したラファエルは、ややして咳払いを一つすると、知らず浮かせていた腰を静かに下ろした。
アンリは喉奥で微かに笑い、空にしたカップをテーブルに戻す。
「安心しろ。頼まれてもあの阿呆を抱く気にはならん」
「……それはそれで複雑ですけど」
そのあまりの言いように、ラファエルは気持ち不服そうに呟くものの、
「だがまぁ、ジークの方は何とも言えんな。少なくとも、私の不在時のことまで責任は持てん」
「……そうですか」
「そんなに心配なら首輪でもつけておけばいいだろう」
「そうしたいのは山々なんですけどね……」
そんなふうに言われてしまうと、もはや苦笑するしかない。
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