20.束の間の

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「悪魔が淫魔の匂いに敏感っていうのは本当なんでしょうか?」  カップを下ろし、気持ち背筋を正してから、神妙そうにアンリを見つめる。  アンリは「なんだ」とばかりに一瞥し、他人事のように答えた。 「まぁ、確かに他の種族に比べると嗅ぎつけてくるのは早いようだな」 「そう、なんですか……」 「だがまぁ、覚醒している淫魔自体、現在(いま)はそういるわけではないからな。そこまで気にするほどのことでもあるまい」  アンリは適当な一般論を口にしながら、カップの残りで喉を潤す。  だがラファエルはそれでは納得がいかないようで、すぐさま「いえ」と首を振り、僅かに身を乗り出した。 「気になりますよ。現にさっきの彼には何度か惹かれているようですし」 「あぁ、ジークか」 「何とかならないんですか? 同じ淫魔だという、アンリには何ともないようなのに……」  珍しく焦燥感をにじませるラファエルに、アンリはあえて平然と言う。 「私は雄の血だからな。もし私のフェロモンに当てられるようなことになれば、あの阿呆自ら股を(ひら)」 「ちょっ……ちょっと! 待ってください」  それをラファエルが慌ててそれを阻む。 「……真顔で変なことを言うのはやめてください」  思いの外動揺したラファエルは、ややして咳払いを一つすると、知らず浮かせていた腰を静かに下ろした。  アンリは喉奥で微かに笑い、空にしたカップをテーブルに戻す。 「安心しろ。頼まれてもあの阿呆を抱く気にはならん」 「……それはそれで複雑ですけど」  そのあまりの言いように、ラファエルは気持ち不服そうに呟くものの、 「だがまぁ、ジークの方は何とも言えんな。少なくとも、私の不在時のことまで責任は持てん」 「……そうですか」 「そんなに心配なら首輪でもつけておけばいいだろう」 「そうしたいのは山々なんですけどね……」  そんなふうに言われてしまうと、もはや苦笑するしかない。
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