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* * *
「まだ話の途中だったのに……有無を言わせず魔法で追い出すなんて、失礼な人ですね」
突然屋外――それも中空へと放り出され、辛うじて着地したラファエルがぶつぶつこぼしていると、
「わ、本当だ、すごい!」
「だろ? 見ろよこの艶やかな羽」
「あ、尻尾も」
「あぁ、尻尾は出したり出さなかったりだけどな」
「そんなこともできるんですか」
「まぁ、体調とかでたまに消せなかったりもするが……。あ、これ言うなよ。尻尾は弱点でもあんだから」
「なるほど……わかりました。内緒ですね」
死角となっている場所から、そんな会話が聞こえて来た。
ギルベルトとジークの声だった。
(ギル、まだいたんですか……)
ラファエルは呆れ気味に溜息をつき、そのままそちらへと足を向ける。けれども、彼らの姿が見えてくる前に、ふと思い立って足を止めた。
「つーか、ジークはしばらくここにいんのか?」
「あぁ、えっと……いつまで、っていうのは俺には分からなくて」
「ふーん……そうなのか」
傍らの壁に背を預け、腕を組みながら、ラファエルはそっと聞き耳を立てる。
(……え? なんですか? ヒート中でもない彼に興味を持ったんですか?)
「まぁいいや。じゃあ、とりあえず近いうちにまた話そうぜ。お前の知らないあんなことやこんなことも、そん時に教えてやるよ」
「あ、はい。ありがとうございます! ……えっと、ギルベルトさん……で良かったですよね」
「ギルでいい」
「ギル……さん」
「さんとかいらねぇよ」
「ギ、ギルさ……ギル……? ぜ、善処します」
(あんなことやこんなことって……いったい何を教えるつもりなんです)
……っていうか、いつの間にそんな仲良く?
気がつくと、妙に親しげに話しているその様相に、ラファエルは思わず閉口した。
(……いいんですか、それで)
二人とも、過日にあったことを覚えていないんでしょうか?
ギルはともかく……ジークの方も。
ラファエルがそう思うのも無理はない。
だが実際、そこにはもう特筆すべき確執は存在していなかった。
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